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日本で働く外国人について研究するため、研究対象に選んだのは「フィリピンパブ」。そこで働くフィリピン女性と恋に落ちて……。
大学院生の実体験に基づいたルポルタージュ『フィリピンパブ嬢の社会学』(新潮新書)が映画化された。
ストーリーの舞台で映画撮影地の名古屋市での先行上映を経て、2月17日から新宿ケイズシネマなど全国での上映が開始する。
映画のヒロイン、フィリピンパブ嬢・ミカ役を演じたのは、フィリピン出身の一宮レイゼルさん(26)だ。12歳で家族で日本に移住し、現在は俳優やモデルとして活動している。
ミカ役を演じて変化した、“元フィリピンパブ嬢”である母親への思い。映画を通して知ってほしい「日本で働く外国人の姿」とはーー。一宮さんに話を聞いた。
原作『フィリピンパブ嬢の社会学』は、著者・中島弘象さんが実体験を綴り、2017年に刊行した、“ノンフィクション系社会学”の新書。
日本で暮らす外国人の実態をリサーチしようと、研究対象にしたフィリピンパブが、実は「偽装結婚」でフィリピン人女性を日本へ渡航させ、働かせていたという、ドラマのような実話だ。
映画では、日本で言葉の壁もある中で、家族のためにひたむきにパブでの仕事に向き合うミカの姿や、ミカの人柄や家族思いな一面にどんどん惹かれていく、少し頼りない主人公・翔太が描かれている。
映画化では、お笑いコンビ「まえだまえだ」でブレイクし、現在は俳優として活動する前田航基さんが大学院生・中島翔太役を演じ、一宮さんが、オーディションでミカ役に選ばれた。
一宮さんは高校卒業後、プログラマーとして東京や出身地・石川県のIT企業に務めていたが、約2年前からモデルの活動を始め、ミスコンなどにも出場した。
同作品の映画化に際し、ミカ役を募集していると聞いて応募。映画出演はおろか、演技の経験もあまりなく、オーディションも受けるか迷ったが、見事ミカ役に抜擢された。
一宮さんは「映画初出演でミカ役に出会えたことは運命的」と話す。
偶然にも、一宮さんの母親もかつてフィリピンパブで働き、母国の家族の暮らしを支えていた。
「私が3歳の頃から母親は一人で日本に出稼ぎに行っていたので、私と妹はフィリピンで祖母に育てられました。家には従兄弟たちも住んでいて、十数人の大家族で暮らしていました」(一宮さん)
一宮さんが12歳の頃に、母親を頼って妹たちと石川県に移住。日本語が分からない状態で日本の小学校に編入し、漢字などを必死に勉強した。
娘たちが苦労しないようにと、母親は夜はスナック、昼は掛け持ちのパートで働いたという。
かつては、母親がパブやスナックで働いていることを「恥ずかしい」とさえ感じていたという一宮さん。その思いは、この映画への出演を経て、180度変わった。
「最初に原作や台本を読み終わった時、母はこういう思いでがんばっていたんだ、と感じました。この映画に出る前は、母親がパブで働いていることを恥ずかしく思っていて、特に学校の友達には知られたくなかったんですが、ミカ役を演じて、印象がガラッと変わりました」
映画内のミカは、偽装結婚で来日しているが、そうではなく正規の就労ビザを得て来日し、働いているのであれば「何も恥ずかしがることはない。悪いことはしていない」と、考え方が変わったという。
母親は現在もスナックで働いていて、映画の役作りに向けては、一宮さんも人生で初めて母親の職場を訪れ、仕事ぶりを見学した。そこで一宮さんは、母親の「苦労」と「強さ」を痛感した。
「実際に母の仕事場に行き、接客の様子や、仕事仲間とどのように接しているのか見学しました。笑顔を絶やさずに接客する様子はまさにプロだと思いました」
「母は家では、仕事が大変だとか、嫌なお客さんがいたとか、一切弱音を吐きません。だから当時は母がどういう苦労をしていたのか全く知らなかったのですが、映画や、役作りに向けた職場の見学を通して、母親の苦労を知りました」
フィリピンでは、国内の失業率の高さや低賃金を理由に、国民の多くが海外に出稼ぎに出ている。
フィリピン中央銀行によると、2022年の国内総生産(GDP)の8.9%が海外送金だった。
中長期での海外での就労だけでなく、海外移住を含め、外貨を稼ぎフィリピンに送金することで、母国で暮らす家族だけでなく、国の経済が支えられている。政府も海外で働く国民を「現代の英雄」と称える。
しかしその裏には、国に残る親戚一同が、海外からの送金に頼りっきりになってしまったり、幼い子どもを国に残したまま海外就労するために、家族がバラバラに暮らさざるをえなかったりといという「犠牲」もある。
実際に、一宮さんの母親も約9年間、娘たちを国に残して日本で働き、少ない休みを利用して一時帰省する生活を続けて家族を支えた。
苦労が絶えない状況下でも、笑顔を絶やさずにポジティブに生きるフィリピン人の「強さ」と「したたかさ」が、映画でもリアルに描かれている。
職種は違っても、一宮さんはミカを演じる中で、共感する場面が多々あったという。
「フィリピン人は皆そうかもしれませんが、家族思いな一面は、共感するところがありました。家族のためだったら自分がどんなに苦労しても耐えられるし、給料のほとんどを送金してでも家族を喜ばせたいという思いは一緒だなと」
「大学を卒業しても仕事がないという年下の従兄弟たちの状況を見ていると、フィリピンで安定した生活を送る難しさを感じます。自分たちは日本で暮らせているだけですごく恵まれているとも思うので、幼少期に姉妹のように育った従兄弟たちには、できることはサポートしたいとも思います」
厚労省によると、日本で働く外国人の数は、2023年10月時点で204万人を超え、過去最高を更新した。
一口に「外国人労働者」と言っても、職種や来日の理由は様々だ。
しかし一宮さんは、この映画を通して観客に、日本にいるたくさんの「ミカ」に思いを馳せてほしいと願う。
「この映画ではパブでしたが、日本ではたくさんのフィリピン人、そして外国人が働いています。ホテルや工場、介護施設など、様々な業界で活躍しています」
「みんな仕事は大変だけど、家族のためにも一生懸命がんばっていて、どんなにつらい思いをしても家族のことを思うとがんばって乗り越えられるという気持ちで働いています。そんな外国人たちがたくさん、日本で働いていることを知ってほしいです」
フィリピン関連の日本映画は、国際交流基金が現地で主催する日本映画祭で上映されることも多い。
一宮さんは「いつかフィリピンでも上映もしてほしい」とし、こう語った。
「海外で出稼ぎをする人が多くいるフィリピンですが、現地で本人たちがどういう思いで働いて送金しているかは、国で暮らす家族は知らないことが多いです」
「私の母親もそうでしたが、母国の家族にわざわざ愚痴をこぼしたり、どんな苦労があるのかを言ったりはしません。だから普段は、本人たちの苦労は見えないのです。この映画を通して、海外で働く人たちの思いも知ってほしいと思います」
ミカの台詞の中で最も印象に残った好きな言葉を聞くと、一宮さんは、映画のポスターにも書かれている、あるフレーズを挙げた。
作中でミカも、自分と周りに言い聞かせるように繰り返す、「大丈夫。なんとかなるって」 という言葉だ。
これは、タガログ語で頻繁に人々に使われる「バハラナ」という言葉に当たる。
日本語でいう「明日には明日の風が吹く」というニュアンスも含み、フィリピン人が日常的に、自分や他者を明るく励ますために使う。
一宮さんは「この言葉に頼りすぎてしまう時もあるけど」と笑いつつ、「魔法みたいな言葉だ」と語った。
「無意識で使っていますが、本当にこの言葉は『強いな』と思います。正に言葉の通りで。どんなつらい状況にあっても、この言葉を思うだけですごく気が楽になるし、本当になんとかなるんだなって思うようになりました」
「苦しくて思い詰めてしまう時は、『大丈夫、なんとかなる』のバハラナの考え方を持つことも良いものだよと、日本の人たちにも勧めたいです」
日本には現在、30万人以上のフィリピン人が住んでいるが、日本の映画やドラマでフィリピン人が主なキャラクターとして登場することは少ない。
そして、日本のメディアではフィリピンの治安の悪さや貧困問題などが取り上げられることが多いが、一宮さんはこの映画が、少しでもそのイメージを変える一助になればと話す。
「フィリピン人はビザのために日本人と結婚しているだとか、貧しくて治安が悪いという、一種の『偏見』があるかもしません。確かに国としては貧しいけど、『そればっかりじゃないよ』と伝えたいです」
「人々はバハラナの精神で笑って、強く、ポジティブに生きている。映画を通して、フィリピンやフィリピン人の良い面をたくさん知ってほしいと思います」
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
母親は元“フィリピンパブ嬢”。役を演じて知った母の「苦労」と「強さ」。映画「フィリピンパブ嬢の社会学」が私たちに教えてくれること
1: 通りすがりのコメンテータ…