小学校の「タブレット盗撮」発覚でも全国調査はせず。専門家は「氷山の一角」と指摘。

東京都内の市立小学校で2023年12月、複数の高学年の男子児童が、授業で使用していたタブレットで多数の女子児童の着替えを盗撮、画像データを共有していたことが判明した。

学校の中では、これまでも「スカートめくり」「ズボンおろし」「覗き」など、「いたずら」と括られてきたもの含む性暴力が発生してきた。

加えて、子どもとインターネットの距離が近くなり、その被害はさらに甚大になっている。盗撮画像が流出すれば、長期間に渡って、学校の外の「加害者」からも被害を受け続けることになるからだ。

今回の盗撮で、同市教委は外部への画像データ流出は確認されていないとしている。

ハフポストの取材では、別の小学校でも同様の被害があったことがわかっているが、盛山正仁文部科学大臣は、記者会見で、各学校での盗撮事案を網羅的には把握しておらず、文科省としての実態調査を行うことは考えていないとの見解を発表している。

今何が必要か。NPO法人ピルコン理事長で学校での性教育に詳しい、染矢明日香さんに話を聞いた。

ーー今回の事件をどう受け止めていますか?

今回は報道で発覚しましたが、氷山の一角。全国調査をして対策を講じるべきだと思います。私も、子どもや教職員を対象にした講演・研修の仕事をしている中で、全国どこでも同じような問題が起こっていると聞いています。

また、盗撮の他にも、他の生徒や大人から下着姿や性的な画像を送るよう求められ「自撮り」してそれが流出するといったトラブルは頻発しています。ネット上に一度アップロードされれば完全に消すのは大変難しい。

ーー性犯罪として加害児童を厳重に処罰する必要性についてのコメントも多くみられました。

加害した児童を「性犯罪者の予備軍」として排除しようというコメントを私も見ました。しかし、もしかしたらその子もこれまで被害にあってきたのかもしれないし、なぜそれが相手の尊厳を傷つける行為なのか、友達がしようとした時に止めるにはどうすればいいのか、などをこれまで学ぶ機会がなかったということの裏返しだと思います。

やってしまったことの責任を知り反省することも大切ですが、教えてこなかった社会の問題の皺寄せを子どもが受けていると考えるべきです。

ーー教えるというのは「性教育」でしょうか。

「ICT教育」だけではなく、広い意味での「性教育」が必要です。

例えば、日常生活の中でスカートめくり、カンチョー、ズボン下ろし、性器タッチなどはまだまだ起こっていて、大人も「子どものふざけ合い」と軽視しがちです。なぜそれをやってはいけないのか。プライベートゾーンを触ったり勝手に見たりしてはいけないのか。生殖との関わりや、「自分のからだをだれがどう触ってよいのか決めるのは自分」という「からだの権利」を教えることが必要です。

相手に触れる時はその人の同意・意志を確認し、明確な返事を得てからすることが人権を尊重することであり、自分の生活の延長上にあることとして考える教育も必要です。

ーー改めて、なぜ日本では「性教育」が不十分なのでしょうか?

政治の動きなど様々なことがありましたが、根底には大人自身が「自分自身を大切にすること」を学んでこなかったのではないでしょうか。

性犯罪の刑法改正などを受け、性暴力被害をなくすため、文科省は2023年度から「生命(いのち)の安全教育」を始めました。「性教育とは別物」という立て付けながら、性暴力について教えることがやっと始まりました。性器を含むからだの部位の働きや同意などについて触れられていないという課題もありますが、第一歩だと思います。

しかし、義務化はされなかったため、年度はじめのアンケートで教員研修を実施予定と回答していたのは半分程度(朝日新聞調査)で、都道府県、各学校で取り組みにはバラツキがあります。

私も教員向けの研修で、温度差を感じることがあります。「うちの学校にはないですけどね」という態度で研修を受けにくる先生もいます。その先生のクラスで、性暴力があった時に、果たしてそういう先生に子どもが被害を打ち明けられるでしょうか?「どこでも起こるかもしれない」「困った時は力になるよ」と言ってくれる先生がいて、初めて子どもは打ち明けられるのではないでしょうか。

テレビなどでも、お尻や胸、股間を触る、お風呂を覗くというようなことが、微笑ましい「笑い」の場面であるということを学んでいってしまう構図がある。性に関して、お互いの同意があれば楽しいコミュニケーションになり得る一方で、相手の気持ちを無視した性的な触れ合いは、人の尊厳を傷つける、安全安心で過ごすことを難しくさせることなんだということを何度も共有するべきです。

ーー「笑い」といえば、松本人志さんによる性加害を女性が告発した問題が報じられています。週刊誌報道そのものの真偽はこれから法廷で争われるようですが、関連して、テレビ番組で「セクハラ」をする、股間に触るなどの性暴力を「笑い」にするようなコンテンツがいまだにあることにも、改めて「おかしいのでは」という声が上がりました。

教室から地続きにある問題だと思っています。そして、性暴力をなくそうとしている動きと、学んでこなかった人とのギャップが生まれている。過渡期かなとは思いますが、誰もが当たり前に学んで欲しい。

何が性暴力になるのかを知らず、「これまでもそれが普通だったし、自分たちだけは許される」と考えて自分をアップデートできないでいると、気づかないうちに性加害をして誰かの人生を傷つける深い傷を追わせてしまう。

そして、社会的地位を失うこともあり得るのだと明るみに出たのではないでしょうか。

ーー親として、今回の事件のような被害・加害を防ぐため、あるいは起こった後にできることは何かありますか?

私たちのNPO法人「ピルコン」では、アメリカの性教育NGOが製作し、無料公開されている性教育動画「Amaze」という動画をクラウドファンディングによる資金を使って翻訳し、DVDとして販売、一部をYouTubeでも公開しています。

「裸の写真を送って、と言われたら?」「思春期にはどんなことが起こる?」「インターネットの安全な使い方」「同意とコミュニケーション」など、アニメのストーリー仕立てで、日常生活でありそうなシーンも取り上げていて、子どもが自分自身でどうすればいいのかを考えることができます。まずは子どもたちと話題にしていくことが大切だと思います。

また、三重県が公開している「『学校における児童生徒間の性暴力』対応支援ハンドブック」も様々な機関の連携で作られていて、予防からもし起こってしまった時の対応策まで取り上げられており、自治体での取り組みの参考になると思います。

大人世代は性教育を十分に受けていない。子どもだけでなく、大人の側も学ぶ機会を得ることが重要だと思います。

染矢 明日香(そめや・あすか)さんプロフィール

NPO法人ピルコン理事長。慶應大大学院健康マネジメント研究科公衆衛生専攻修了(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学SFC研究所上席所員。公認心理師。日本思春期学会性教育認定講師。思春期保健相談士。性の健康と権利についての情報発信や講演、政策提言を行う。緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト共同代表。NPO法人デートDV防止全国ネットワーク理事。一般社団法人性と健康を考える女性専門家の会理事。中高生のための性のモヤモヤ解決サイト「セイシル」アドバイザー。

著書に『マンガでわかるオトコの子の「性」』(監修:村瀬幸浩、マンガ:みすこそ、合同出版)、『はじめてまなぶ こころ・からだ・性のだいじ ここからかるた』(監修:艮香織、合同出版)。監修書に『10代の不安・悩みにこたえる「性」の本』(学研プラス)。

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