レイシャルプロファイリングとは何か?「人種」や肌の色、国籍を理由とした差別的な職務質問が問題に【解説】

日本のレイシャル・プロファイリングに見られる4つの特徴

「レイシャルプロファイリング」という言葉を聞いたことがありますか?

Racial(人種の)とProfiling(犯罪捜査において、データなどを基に容疑者の特徴を推定し割り出す手法)を掛け合わせた言葉です。

在日アメリカ大使館が2021年、日本の警察によるレイシャルプロファイリングを巡ってSNSで警告を出すなど、近年関心が高まっています。

1月29日には、レイシャルプロファイリングの違法性を問う訴訟が全国で初めて東京地裁に起こされます

レイシャルプロファイリングとはどんな意味?なぜ問題?背景にあるものとは━。日本のレイシャルプロファイリングを巡るこれらのポイントを解説します。

【この記事に書かれていること】

①レイシャルプロファイリングとは?定義は

②日本でもあるの?

③日本のレイシャルプロファイリングの特徴

④なぜ問題?

⑤なぜ起きるの?

⑥公権力による人種差別をなくすために必要なことは?

①レイシャルプロファイリングとは?定義は

レイシャルプロファイリングについて、人種差別撤廃条約などの国際人権法上、確立した定義はありません。

ただ、国連の人種差別撤廃委員会は2020年の一般的勧告で、国際人権機関などがこれまでに採択したレイシャルプロファイリングの定義を列挙し、それらに共通する要素を次のように示しました。

(1)法執行機関による行為

(2)客観的な基準または合理的な正当化事由によって動機付けられたものではない

(3)人種、肌の色、世系、国や民族的出身、またはこれらの事由と関連する他の事由(宗教、性別、性的指向、障害など)との交差に基づく

(4)出入国管理や犯罪活動、テロリズム、法律違反とされる・その可能性がある活動との闘いなど、特定の文脈で利用される

また、2001年のダーバン行動計画では、レイシャルプロファイリングを以下のように説明し、上記の勧告でもこの表現を採用しています。

「いかなる程度であれ、人種、肌の色、世系や国・民族的出身を基に、個人を捜査活動の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断する警察及び法執行の慣行のこと」

日本では、レイシャルプロファイリングは「警察官による人種差別的な職務質問」を指すと簡潔に表現されることが多く、ハフポスト日本版でも分かりやすさを重視した場合にそのように報じることがあります。ですが、対象となる行為や主体はそれだけに限りません。

上述の勧告によれば、レイシャルプロファイリングの行為者は警察官だけでなく、出入国管理に関わる職員を含むあらゆる法執行官が該当します。

また、職務質問などの警察行政活動に加え、強制捜査、家宅捜索、監視の対象化、国境・税関検査、出入国管理に関わる決定といった活動でも起こり得ると説明しています。

②日本でもあるの?

レイシャルプロファイリングがアメリカなど世界各地で問題となる中、日本でも近年、この言葉が知られるようになっています。日本社会で関心を集めるきっかけとなった出来事が、2021年に起きました。

バハマと日本のミックスルーツの当事者に対し、警視庁の警察官が、東京駅の構内で職務質問をした時の動画がSNS上で拡散され波紋を呼びました

警察官は、職務質問をした理由として、自身の経験上「ドレッドヘアーの人が薬物を持っていることが多かった」からだと説明しました。ドレッドヘアー(またはロックス)は、ブラックルーツの人々の文化や歴史に紐づく髪型です。

職務質問の法的根拠である「警察官職務執行法」2条1項は、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断」し、犯罪を犯しているまたは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由がある場合に、相手を停止させて質問することができると定めています。

ドレッドヘアーが職務質問の理由だと説明した警察官の発言は、同法上の要件を満たさない上、ミックスルーツ当事者の文化的背景を理由に犯罪関与を疑うものであり、人種差別だとして批判が広がりました。

警察庁はその後の内部調査の結果、この警察官による当時の職務質問について「不適切・不用意な言動があった」と認めています

③日本のレイシャルプロファイリングの特徴

日本の警察によるレイシャルプロファイリングの実態を調べるため、ハフポスト日本版は2021年9〜12月、日本で暮らす外国人や海外にルーツのある人とその家族らを対象にアンケートを実施しました。329人から、職務質問の際に人権侵害だと思ったり嫌だと感じたりした体験が寄せられました。

<アンケート結果の詳しい記事はこちら⬇︎>

「だって黒人でしょ」人種差別的な職務質問の調査、329人が訴え

アンケートに届いた声を、いくつか紹介します。

♢警察官たちに日本語で、なぜ周囲の人たちの中から私を調べようとしたのかを尋ねた。彼らは「あなたのような外国人は、たいてい危険な凶器かドラッグを持っているから」と言った(アメリカ出身・両親がアフリカ系アメリカ人、20代男性、兵庫)

♢明確に覚えている3回の職務質問でいずれの場合も、私を止めたのは私が日本人でないからだとはっきり言われた(アメリカ人、40代男性、東京)

♢飲み会後の終電で帰宅し、駅から自宅まで自転車で移動していたときに職務質問を受けた。制服を着た男性の警察官1人で、40〜50代に見えた。最初は「身分証を見せていただいてもよろしいでしょうか」とすごく丁寧な対応だったが、運転免許証を見せると名前から外国人であることが分かったのか、警察官の態度が急変した。笑顔が消え、「在留カードは?」とタメ口で求められた(韓国出身、30代女性、東京)

♢自転車に乗っているところを呼び止められ、財布を勝手に取られて調べられた(アメリカ人、30代男性、大阪)

アンケートに集まった声からは、日本の警察による人種差別的な職務質問の「4つの特徴」が見えてきました。

ケース1:人種や海外ルーツの見た目が職務質問をした理由だと説明された
ケース2:名前や日本語のアクセントを確認後、警察官の態度が変わった
ケース3:理由を明確に説明されなかった
ケース4:許可なく所持品検査をされた

人種差別的な職務質問が常態化している問題は、東京弁護士会による調査でも明らかになっています。

同会は、外国にルーツのある人に対する職務質問に関する調査結果を2022年に発表しました。有効回答数は2094件に上り、レイシャルプロファイリングを巡るこれほどの規模の調査は日本で初めてです。

過去5年ほどの間に職務質問を受けた人のうち、 76.9%が「外国人または外国にルーツを持つ」こと以外に警察官から声をかけられる理由はなかった、と認識していると回答しました。

調査では、職務質問の受けやすさと民族的ルーツに関連があることも明らかになりました。

職務質問の回数を尋ねる質問で、「6〜9回」または「10回以上」と答えた人はアフリカ系37.1%、南アジア34.5%、中東33.3%だった一方で、韓国や中国など北東アジアは10.6%との結果になりました。「外国人ふう」の見た目により職務質問の対象とされやすいことが分かります。

④なぜ問題?

レイシャルプロファイリングは、公権力による人種差別です。強制捜査など、個人の自由を制約し得る公権力による差別は人権侵害に当たるだけでなく、人の命や安全をも脅かしかねません。

ハフポストのアンケートでは、職務質問を100回以上受けたという証言や、職務質問を避けるために夜間の外出を控えるなど行動を変えているという声も届きました。

公権力から繰り返し「犯罪者予備軍」と扱われた結果、警察に対する信頼を失い捜査に協力する意欲が低下したり、日常的に不安を抱きながら生活したりする人もいます。

また、「人種」をもとに犯罪者や危険な存在としてみなす行為は、「人種的マイクロアグレッション(※)」に当たります。

マイクロアグレッションの体験は、社会のマジョリティ側から「大したことではない」「気にしすぎだ」などと過小評価や否定されやすい傾向があります。

ですが、マイクロアグレッションが日常的に積み重なることは、それを受ける人にとって強いストレスを引き起こします。メンタルヘルスを害し、幸福度を低下させることも明らかになっています。

マイクロアグレッション・・・明らかな差別に見えないものの、人種、民族、ジェンダー、性的指向などにおけるマイノリティを対象に、相手が属する集団に対する先入観や偏見をもとに、その人個人をおとしめるメッセージを発する日常のやりとり。悪意の有無は問わない

日本も批准する人種差別撤廃条約は、「個人、集団または団体に対する人種差別の行為または慣行に従事しないこと」「国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動するよう確保すること」(2条)を締約国に義務付けています

また同条約は、締約国が人種などによる差別なしに「全ての人が法律の前に平等だという権利を保障することを約束する」(5条)と明記しています。

これらの条文に照らしても、レイシャルプロファイリングは同条約の趣旨に反することが分かります。

このように見てきた時、「レイシャルプロファイリングは外国人や外国ルーツの人だけの問題だ」と考える人もいるかもしれません。ですが、そうではありません。

過去には、「外国人ふう」の見た目や日本語のアクセントを理由に「外国人」だと判断され、日本国籍の人が警察に誤認逮捕されて長時間拘束される事案も起きています

「外国人」と犯罪の容疑を結びつけるレイシャルプロファイリングは、どんな人も被害を受ける可能性があるのです。

⑤なぜ起きるの?

レイシャルプロファイリングを巡る日本の現状に、国外からも指摘する声が上がりました。

在日アメリカ大使館は2021年12月、「レイシャルプロファイリングが疑われる事案で、外国人が日本の警察から職務質問を受けたという報告があった」として、日本で暮らすアメリカ国民にSNS上で警告を出しました

同大使館による警告が2022年に国会で取り上げられた後、警察庁は全国の都道府県警察に対して調査を実施。人種や国籍などを理由とした職務質問に関する調査の結果、2021年中に6件で「不適切・不用意な言動があった」と認定しました。

一方、同庁はハフポスト日本版の取材に「(対応した警察官はいずれも)人種や国籍への偏見に基づく差別的な意図は持っていなかった」「警察としてレイシャルプロファイリングがあったとは判断していない」との見解を示しました。

差別する意図がなかったとしても、「人種」や肌の色などによる不利益な扱いは人種差別に当たります。差別する意図の有無は、差別であるかどうかに関係ありません。

なぜレイシャルプロファイリングは起きてしまうのでしょうか?背景には、警察官個人の偏見や差別意識だけではなく、警察組織の構造的な問題があります。

ハフポスト日本版が全国の47都道府県警察に行った調査で、警察官による人種差別を防ぐためのガイドラインを策定する警察は「ゼロ」であることが判明しました。警察庁による全国統一のガイドラインもありません。

また、ある元警察官はインタビューで、「新人の頃、外国人に対して積極的に職務質問するよう教え込まれた」と証言しました。元警察官僚の一人は、教育の不徹底が背景にあると指摘し、人権教育の必要性を強調します

差別的な職務質問を推進する警察内部の教育や、人種差別防止に特化した研修プログラムの欠如は、レイシャルプロファイリングを生み、維持する大きな要因となっています。

⑥公権力による人種差別をなくすために必要なことは?

海外に目を向けると、レイシャルプロファイリングが社会問題であることを認識した上で、「ルーツ別で職務質問の回数や警察官の態度にどのような違いがあるか」といった調査研究が行われたり、防止策が講じられたりしています。

例えばアメリカ司法省は2003年、人種や宗教などへの偏見に基づく捜査を規制するガイドラインを策定。その後の改定で、性的指向や障害などを理由とした捜査活動にも広げました。

2023年5月の最新版では、対象を従来の警察官や捜査官に加え、検察官や弁護士などにも拡大しています

専門家は、こうしたアメリカの事例を踏まえ、レイシャルプロファイリングの問題に踏み込んだ全国統一の指針が日本でも必要だと指摘しています

日本では、職務質問が摘発の端緒となった事件数は毎年公表されているものの、職務質問の対象となった人のルーツなどの属性、職務質問の理由、質問内容、実施件数といった詳細な情報は公開されず、ブラックボックスとなっています。

人種差別的な職務質問の実態を把握し、改善するためにも、まずは統計と検証が必要です。

さらに、あらゆる人権侵害の被害に遭った場合、政府から独立して調査や対策を担う「国内人権機関」が日本にないことも課題です。

国内人権機関は、世界で120の国に設置されています(2023年4月時点)。日本は国連などから繰り返し設置を求められていますが、実現には至っていません。公権力から人種差別を受けた際、第三者の立場から適切に審査され、救済や再発防止が行われる仕組みが必要です。

国連の人種差別撤廃委員会の一般的勧告(2020年)は、「レイシャルプロファイリングとの効果的な闘いには、人種差別を禁止する包括的立法が欠かせない」と指摘し、禁止法の策定や実施を各国に求めています。

▼参考文献

『レイシャル・プロファイリング 警察による人種差別を問う』(宮下萌編著、大月書店)

『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション 人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別デラルド・ウィン・スー著、マイクロアグレッション研究会訳、明石書店)

『無意識のバイアス 人はなぜ人種差別をするのか』(ジェニファー・エバーハート著、山岡希美訳、明石書店)

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Machi Kunizaki