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かっこいいものを、ただかっこよく。 知的障害へのまなざしを変える「痛快な物語」

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思い込みや偏見をクリエイティブの力で解きほぐす、福祉実験カンパニー「ヘラルボニー」が躍進している。

知的障害のある作家とライセンス契約を結び、作品をデジタルデータ化して自社のIP(知的財産)として管理。利用する企業からライセンス料を得るビジネスを軸に、2018年の設立以来、売上高は毎年2〜4倍上昇し、2027年のIPO(新規株式公開)を視野に入れる。

ヘラルボニーが「共創パートナー」と呼ぶ、企画を共に組み立てる契約企業には、JALやJR東日本グループ、ディズニーなど錚々(そうそう)たる顔ぶれが並ぶ。

10月から岩手県内で運行が始まったラッピング列車10月から岩手県内で運行が始まったラッピング列車

成長は、作品のかっこよさを世の中に広める力になる。障害に対する社会の眼差しを、尊敬へと変える力になる。岩手県で生まれ育った双子の兄弟が立ち上げたスタートアップは、だから資本主義経済で勝ち続けることにこだわる。

「いろんな人の希望になる、痛快な物語をつくりたい」──健常者前提の社会を変えようと挑戦を続ける松田崇弥社長に、これまでの道のりと思い描く未来を聞いた。

松田崇弥さん松田崇弥さん

小さな頃から抱いてきた違和感

──起業から5年が経ちました 

24歳の時、母に誘われて行った岩手の「るんびにい美術館」、そこにあった知的障害のある人たちのアート作品との出会いがきっかけでした。

「めっちゃかっこいい!なんだこれは!」衝撃を受けました。でも世の中には、かっこいいという伝えられ方をしていなかった。

福祉や社会貢献の文脈が強すぎて、自分の感じた「すごい!」という感情と社会との受け止め方にはギャップがあった。このギャップを、クリエイティブの力で超えてみたい。広告代理店で働いていたので、業界人の端くれとして、作品を通して世の中に問題提起したい、という気持ちになりました。

私の4つ上の兄は、知的障害を伴う自閉症です。私と(ヘラルボニー副社長の)双子の文登と、小さい頃から3人で仲が良くて、周囲が兄を見る視線に違和感を感じながら育ちました。兄には独特のルーティンがあって、物事が普段通りに進まないとパニックを起こすけれど、だからといって、それが何なんだろう、と。

小学校の卒業文集には「特別支援学校の先生になりたい」と書いた。芸術系の大学を卒業して広告代理店に入社してからも「30歳までに福祉領域で起業をしたい」と考えていました。

だからすぐに、動き始めました。

文登や友人に、一緒にやろう、と連絡をして、るんびにい美術館へ、アート作品を使ったネクタイを制作したい、とプレゼンに行った。

会社は副業禁止だったので、早朝にスカイプでミーティングして、深夜や土日を制作にあてました。

障害のある人たちのアートが、色のついたフィルターを通さずに評価されることで、障害福祉のイメージを変えたい。障害という言葉の持つイメージを尊敬に近づけたい。

その気持ちが次第に膨らんでいって、ある日急に、会社を辞めようと思い立ったんです。

年度初めの全社朝礼で、社員が順番に売り上げ目標を言っていくのですが、その時に「あぁ、俺はまた目標に掲げた数字を追っていくのか」と、その先の1年間が見えた。朝礼で20人ぐらい並ぶ中で「失敗してもいいから、自分のリソースを全部やりたいことに傾けたい」と衝動的に思った。その日の昼に、直属の上長に退社の意思を伝えました。

そこから会社を立ち上げたのですが、最初のうちは食い繋ぐために、レストランのコピーを作ったり、ウェブサイトを作ったり、地方自治体の関係人口創出プランを作ったり。貯金残高はどんどん減っていきました。

大きなビジネスになるとは思いもしなかった。

7〜8月にかけてヘラルボニーが日本橋三越本店で開催した「異彩の百貨店」7〜8月にかけてヘラルボニーが日本橋三越本店で開催した「異彩の百貨店」

M&A提案に受けた衝撃「ちっぽけな俺には世界が見えない」

──今や上場も見据えています。転機は何だったのでしょう  

創業から1年半ぐらいで軌道に乗った頃、M&Aを提案されたんです。

上場企業の社長室に呼ばれて、ヘラルボニーが数億円規模の事業体になって満足する世界が見えるけれど、あなたは社長を続けたいのか、と問われました。その方からすれば、ヘラルボニーは何百、何千億円という規模に成長して、本当の意味で世界を変えられる。だから、買収したい、と。

「この人に見えている世界が、ちっぽけな俺にはどうして見えていないんだろう」。ショックでした。

私たちは創業してすぐに、会社のミッション「異彩を、放て。」を考えました。

知的障害のある人たちの無数の個性、普通じゃないことの可能性、そんな「異彩」を社会に広めて、福祉を起点に新たな文化をつくり出していく、というものです。

障害福祉にこれまで関心のなかった層へアプローチして、共創事例を増やすことで、逆輸入のような形で福祉業界側の共感も獲得しよう、と仕事を進める方向性も決めました。

でも、中長期的な売上計画とか、事業規模をどこまで広げたいのか、なんて考えたことがなかった。

M&Aの話があって、目指したい未来までの世界観を描くようになった。文登と一緒に「自分たちで社会を変える挑戦をしよう」と覚悟を決めて、スタートアップがやるべきことに動き始めました。

企業のアクセラレーションプログラム(※)にとにかく応募し続けて、同時に、シードラウンド(※)の資金調達のため、投資会社へ話をしに回りました。

©️ヘラルボニー©️ヘラルボニー

私たちはダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)という大きな時代の波に乗せてもらえた、と思っています。

企業はヘラルボニーと共創することで、社会貢献と同時に収益を上げられる。CSRとして社会的に良いだけじゃなくて、アート作品を使うことで顧客が喜んだり、利用者が増えるといった経済性が生まれる。

DE&I観点のIPビジネスモデルが、企業にとってコラボレートしやすい独自性のあるものだったから、今のポジショニングが取れたんだと思っています。

スタートアップの登竜門と呼ばれるICCサミットの「ソーシャルグッド・カタパルト」での優勝や、日本スタートアップ大賞で審査委員会特別賞を受賞するなど、賞レースで評価して頂いたことも、大きな投資を受けるチャンスになりました。

※アクセラレーションプログラム..企業や自治体が出資し、スタートアップと協業するプログラム

※シードラウンド…スタートアップ企業が資金調達する初期のフェーズ

<松田崇弥さんインタビュー 後編 は10月20日配信予定です

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かっこいいものを、ただかっこよく。 知的障害へのまなざしを変える「痛快な物語」

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