スマホや電気自動車のバッテリーに採用されている「リチウムイオン電池」の電極に生じるクラック(ひび割れ)は、経年劣化による性能低下の原因のひとつとされてきました。しかし、今回ミシガン大学が発表した研究では、正極のクラックをなくすことが望ましくない副作用をもたらす可能性があるということが判明しています。
*Category:サイエンス Science *Source:MICIGAN NEWS ,pv magazine ,Energy & Environmental Science
リチウムイオン電池の急速充電には「ひび割れ」が欠かせなかった
リチウムイオン電池には「正極」と「負極」があり、正極は数兆個の金属酸化物の微粒子で構成されています。電池の充放電時などに、この正極の粒子におこるのがクラック(ひび割れ)です。
多くのメーカーはこのクラックに強い新素材を使って、バッテリーを長寿命化しようとしてきました。しかし今回の研究論文の筆頭著者であるリー助教授は「残念ながら、クラックを取り除いた場合、電池粒子は急速充電できなくなります」と指摘しています。
これまでバッテリーの充電速度は、より小さな粒子から作られた正極を使用することで改善されると考えられてきました。正極は体積に対する表面積の比率が高く、リチウムイオンの移動距離が短くなるためです。
研究チームは、バッテリーの充電に伴う個々の粒子の挙動を追跡する高度な技術を用いて、この仮説を検証しました。
研究では、100個の微小電極を含む2x2cmのチップを使用し、そこにニッケル-マンガン-コバルト陰極(NMC)粒子を散布しています。これを「人間の髪の毛の約70倍の細さ」の針を使って、個々の粒子を電極上に移動させ、粒子を個別に充放電させました。
この実験の結果、充電速度は粒子サイズの影響を受けないことが示されました。実験の詳細は、「Energy & Environmental Science」誌に掲載された論文に記載されています。
リー助教授ら研究チームは「正極が割れたときに、大きな粒子が小さな粒子の集まりのように振る舞うため、リチウムイオンが粒界でより速く移動できる」と考えており、これまで有害とされていたクラックが、急速充電を実現するのにおいて不可欠なのではないかと指摘しています。
If this electrolyte cracking model is accurate, then our results show that intergranular cracking, long believed to be strongly detrimental to cycle life, is in fact essential for the ability of polycrystalline particles to (dis)charge at reasonable cycling rates.”
「この電解質クラッキングモデルが正確であるならば、我々の結果は、長らくサイクル寿命に強く有害であると信じられてきた粒界クラックが、実際には、多結晶粒子が妥当なサイクル速度で(放電)充電する能力にとって不可欠であることを示している」
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