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「私たちが地球や生物圏に対してどんな悪いことをしているのかをみて、星の王子さまは泣いていると思います」
世界的なベストセラー「星の王子さま」の作者、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリさんの大甥、Olivier d’Agay(オリヴィエ・ダゲイ)さんはそう語ります。
誰もが一度は「星の王子さま」のイラストを目にしたことがあるのではないでしょうか?子どもの頃に読んだことがあるけれど忘れてしまっている人や、イラストは見たことがあるけれど読んだことはないという人もいるかもしれません。
ダゲイさんは、「大人にこそ、この本を読んでほしい。心を込めて読めば、きっとあなたの不安に対する解決策を教えてくれます」と話します。
戦争、気候危機など、未来が不安な今こそ思い出したい、「大人が忘れてしまっていること」とは?
ーー「星の王子さま」は、2023年に出版から80周年を迎えました。改めて、ダゲイさんは本作をどのように捉えていますか?
オリヴィエ・ダゲイさん(以下ダゲイさん):
星の王子さまはとても意義深くて、宗教に囚われていない信用できる本だと考えています。人生の意味や、死の意味、友情の法則や愛、人生とどう向き合うかなど、この本は「解決策」を与えてくれます。だから、この本は人生を理解し、人生の指針を与えてくれる重要な本なんです。
また、星の王子さまのキャラクターは、地球や子どもを守ること、持続可能性、平和といった非常に重要な価値観のアンバサダーとなっています。星の王子さまが、世代、文化、宗教、年齢を問わず、同じ価値観を共有する世界中のすべての人々をつなぐ「象徴」へと発展しているのです。
この価値観をさまざまなメディアを通じて世界中に広める手助けをすることが、今の私にとって重要なミッションです。
ー久しぶりに本作を読んだら、昔読んだ時と全く違う印象を持ちました。
ダゲイさん:
開くたびに新しい発見がある本なんです。毎回新しい意味や物語を見つけられる。
日本の読者の皆さんはご存知だと思いますが、この本は子ども向けの本というわけではないんです。だから、友人や知り合いに、この本はいつ読んだの?もう一回読んで感想を聞かせてよ、と言うと、後で「ああ、君の言う通り、全然違ったよ」と言われます。大人には、ぜひもう一度この本を読んでほしいですね。
ー星の王子さまの有名なフレーズといえば、「本当に大切なものは目に見えない」ですね。
ダゲイさん:
日本では、ヘビが象を食べるイラストが有名ですよね。本の中で大おじは、そのイラストを大人に見せると、大人は「帽子」だと答えるんだ、と言っています。一方、子どもたちや星の王子さまはイラストを見て、「ヘビがゾウを食べるなんて嫌だ」と言うんです。
このように、無邪気に、誠実に、そして心をこめて物事を見なければなりません。これは心のビジョンであって、目で見る「ビジョン」とは違う。心で見て人と話せば、目では見えない本質的なものを見ることができると、この本は教えてくれます。
ー今、世界では戦争や気候変動など様々な問題が起こっていて、不安な時代だと感じます。ダゲイさんが気になっているトピックはありますか?
ダゲイさん:
気候変動は大きな問題で、本当に心配しています。どうすれば地球を守れるのか。星の王子さまのメッセージが力になると思っています。難しいことですが、この本のメッセージによって、大人たちを説得しないといけません。
私たちが地球や生物圏に対してどんな悪いことをしているのかをみて、星の王子さまは今泣いていると思います。大人たちは再び「星の王子さま」の本に立ち返って、子どもたちや動物たちの声に耳を傾けるべきです。彼らが真実を知っているから。
作者である私の大おじは、先見の明があったと思います。彼は飛行士として空を飛び、空から地球を見ていた。地球のもろさ、特異性、そして地球という惑星を理解していたと思います。だから彼は「地球を守らなければならない」と、本当に心配していました。
ー気候変動では、将来世代のオピニオンやアクションに期待する声もありますが、今の大人たちが動かなければならないと思います。星の王子さまは、大人が「子ども」の視点を持って変わる助けになりますか?
ダゲイさん:
「星の王子さま」にはその力があると思います。ただ、大人たちは「変わりたくない」「なぜ自分や自然を変えないといけないんだ」と言って結局変わらない人も多い。難しいことですが、愛も持って向き合わないといけません。
本作のコアバリューの一つは「責任」です。本の中で、地球で出会って友達になろうとしたキツネは星の王子さまに「何を飼いならすか、誰を飼いならすか、その責任は自分にある」と言います。星の王子さまには、もともと住んでいた星に残してきたバラに対しての責任があるように、人類には地球に対して責任がある。我々はそれを世の中に伝えて聞く責任があると思っています。
ー今回の来日は、星の王子さまと2021年にコラボイベントをしたゲーム「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のポップアップに合わせてのことだそうですね。正直、ゲームとコラボしたと聞いた時は意外でした。
ダゲイさん:
このコラボは偶然ではなく、起こるべくして起こったコラボレーションだと思っています。星の王子さまとskyはすごくシンクロしています。元々星の王子さまのファンだったskyの制作会社thatgamecompanyのジェノバ・チェンCEOがが、コラボをしたいと話を持ちかけてきてくれました。
話し合う中で、skyと星の王子さまの哲学が全く一緒だということがわかってコラボが決まったんです。
ーskyは、人種や年齢、性別などに関わらず、「人とつながる」ことをテーマにしたゲームです。暴力性や、ジェンダー・人種など様々なバイアスが問題になっていることも多い“メインストリーム”のゲームとskyは違う部分がたくさんあると思いますが、コラボの前後で「ゲーム」への印象は変わりましたか?
ダゲイさん:
その通り、全く違います。私は歳をとっているし、ゲーマーではないのですが、このコラボの話がきてskyのゲームを見てみました。skyはとても美しくて、詩的で、星の王子さまの価値観ととても似ていると感じました。
skyは「ゲーム以上」。哲学なんです。コロナ禍もあって人々が家にいなければならず、「逃げ出したい」と感じた人々に、希望を与えたゲームだと思います。
最初はビデオゲームとコラボするのは心配でした。実は過去にも何度かトライしようと思ったのですが、星の王子さまの精神を理解してもらえず、失敗に終わっていたんです。
ー実際にコラボをしてみて、いかがでしたか?
ダゲイさん:
とても心地のいいものでした。ビデオゲームに星の王子さまのキャラクターが登場しても問題ないというのは、いい意味で驚きでした。ゲーム自体が星の王子さまの哲学をリスペクトしてくれていたからだと思います。
ゲーマーやコミュニティ、スカイファンの反応もとても良かったと聞いています。星の王子さまのファンからも、「これはとても意義のあるコラボだ」「もっとやってほしい」と感謝されましたよ。
星の王子さまの本の最後に、私の大おじはこう書き残しました。
「もしあなたがサハラ砂漠に行った時、髪が伸びていて、質問ばかりしていて、決して質問に答えない小さな男の子に会ったら、彼が誰なのかわかるだろう。そのときはたのんだよ!悲しみに沈んでいる僕に、すぐ手紙を書いてほしい。彼が帰ってきたと」
skyのゲームファンからたくさんメッセージがきました。「星の王子さまが戻ってきたよ!」とね。
ー星の王子さまの精神が、ゲームを通してさらに広がっていったんですね。最後に、これからどんなことをやっていきたいか教えてください。
ダゲイさん:
すべてのコミュニティとインターネットなどを通してつがっていきたいです。世界中に星の王子さまのファンが何百万人もいます。気候変動や平和について、政府や意思決定者に行動するよう働きかける強力な力になるために、私たちはつながり、共に話さなければならないと思っています。
そして、気候変動に対する具体的な行動を起こすために、3つの財団を運営しています。財団の活動を通して意思決定者にプレッシャーをかけ、星の王子さまのメッセージを世界中に届けていきたいです。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
気候危機に「星の王子さま」が泣いている。作者の子孫が今こそ伝えたい、大人が忘れてしまっていることとは?