作家の市川沙央(さおう)さんが、小説「ハンチバック」(文芸春秋、「文学界」5月号掲載)で第169回芥川賞を受賞した。
市川さんは1979年生まれで、早稲田大学人間科学部eスクール人間環境科学科を卒業。難病の筋疾患先天性ミオパチーによる症候性側弯症の当事者で、人工呼吸器や電動車椅子を使用している。
NHKのインタビューによると、これまで20年以上ファンタジーなどのエンターテインメント系の作品を中心に執筆。受賞作の「ハンチバック」が初めての純文学だという。「ハンチバック」は、先天性の遺伝性筋疾患のために、電動車椅子と人工呼吸器を使い、裕福な両親が遺したグループホームで生活している人物が主人公だ。
7月19日の受賞会見で市川さんは「強く訴えたいことがあって、去年の夏に初めて純文学を書きました」と振り返った。
「受賞を受けて、当事者性、当事者小説といった言葉がマスコミで無批判に使われると思います。それについてどうとらえるか」と問われると、「(その表現を用いることを)OKとしていた」とした上でこう続けた。
「私は、これまであまり当事者の作家がいなかったことを問題視してこの小説を書きました。芥川賞にも、重度障害者の受賞者も作品もあまりなかった。今回『初』だと書かれるのでしょうが、どうしてそれが2023年にもなって初めてなのか。それをみんなに考えてもらいたいと思っております」
「この作品を通じて伝えたいこと」としては、「読書バリアフリー」をあげた。「読書バリアフリー」とは、障害の有無にかかわらず、誰もが読書や活字文化を楽しめる環境を整えることだ。
市川さんは「読みたい本を読めないのは権利侵害だと思うので、環境整備を進めてほしいと思います」と述べた。
「iPad mini」などのタブレット端末を用いて小説を執筆しているという市川さん。会見の最後には「ちょっと生意気なことを言いますけれど」と切り出した上で、「各出版社、学術界ではなかなか電子化が進んでいません。障害者対応をもっと真剣に、早く取り組んでいただきたいと思っています。よろしくお願いします」と訴えた。
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「重度障害者の受賞者、なぜ“初”なのか考えてもらいたい」芥川賞・市川沙央さん、読書バリアフリーを訴える