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悪を倒すのではなく、誰かの心の支えになるのが「ヒーロー」。プリキュア20周年作品『ひろがるスカイ』制作陣に聞いた。

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「ヒロイン」という言葉には本来、「女性の主人公」という意味がある。だが、実際には主人公の相手役や、誰かに助けてもらう役どころを想起させられることは少なくない。このことは、多くの作品で女性キャラクターがどんな描かれ方をしてきたのかを物語る。

「女の子だって暴れたい」というコンセプトで2004年に始まったアニメ『ふたりはプリキュア』は、そんなイメージを打ち破った作品の一つだ。タイトル通り、中学生の女の子2人がプリキュアという戦士に変身して戦う物語。女の子向けでありながら、本格的なアクションを取り入れて話題を集めた。シリーズは物語の舞台や登場人物が代替わりする仕組みで放送が続き、2023年で20周年を迎えた。2月から放送中の20作目『ひろがるスカイ!プリキュア』(毎週日曜、ABCテレビ・テレビ朝日系列)は、そのテーマに「ヒーロー」を掲げている。節目となる作品に、どんな思いを込めたのか。プロデューサーの鷲尾天さん、髙橋麻樹さんに聞いた。

毎週日曜 あさ8時30 分〜 ABCテレビ・テレビ朝日系列全国ネット毎週日曜 あさ8時30 分〜 ABCテレビ・テレビ朝日系列全国ネット

――今作のテーマに「ヒーロー」を掲げたのはなぜですか。鷲尾さんはシリーズ初代から5作目までのプロデューサーを務めた、プリキュアの「生みの親」でもあります。

鷲尾天さん(以下、鷲尾) 女性の主人公のことを、通常は「ヒロイン」と呼びます。ただ、20年前に初代『ふたりはプリキュア』を作っていたころから、私たちが描いている女の子たちは、一般的に思い描かれる「ヒロイン」のイメージとは異なるのではないかと感じていました。プリキュアは、自分の足で凛々しく立つ存在です。節目にあたり、制作スタッフ皆で「プリキュアとはどういう存在だろうか」と改めて話し合った結果、やはり「ヒーロー」だろう、と一致しました。

髙橋麻樹さん(以下、髙橋) 悪を倒す存在ではなく、誰かの心の支えになる存在が「ヒーロー」なのだ、というプリキュアシリーズとしての解釈を強調したいと考えています。自分の思いや夢を実現するため、ひたむきに戦う彼女たちの姿は、これまでさまざまな人たちに勇気や希望を与えてきました。それに影響を受けて頑張る人の姿が、また別の誰かに力を与える。思いがつながり、広がっていくイメージの象徴として、今作の世界観やキャラクターの設定は「空」をモチーフにしています。

――『ふたりはプリキュア』を今振り返ると、「ヒーロー」としてはどこが新しかったと思いますか。

鷲尾 初代となった『ふたりはプリキュア』の制作当時はただただ一生懸命で、深くは考えていなかったのですが、今になって思えば、ヒーローの「素の姿」を描けたことが大きかったと思います。だから、視聴者の女の子たちが身近だと感じてくれました。「女の子なのだからきちんとしなさい」とか「おとなしくしていなさい」とかいった圧力は、今よりいっそう強い時代でした。でも、主人公の美墨なぎさと雪城ほのかは、とても自由でした。

なぎさはラクロス部のエースです。かっこいい一面もあるけれど、部屋の中にはファンシーなぬいぐるみが置かれていたり、弟としょっちゅうケンカしていたり。ほのかは科学部の部長で、見た目や話し方はおっとり。でも芯が強くて、自分の考えをはっきりと主張します。

一人の女の子の中にさまざまな面があることを「普通」として描いた。だから、子どもたちに「私と同じだ。じゃあ、私も頑張ればこんなふうになれるかな」と思ってもらえたのかもしれません。 

――「女の子というのはこういうものだ」というステレオタイプにとらわれることなく制作に臨めたのはなぜでしょうか。

鷲尾 女の子向けの作品を担当したことがなかったので、初めはどうすればいいか分かりませんでした。ただ、そのときに思いついたのは、本当に小さな子どものころって、男の子も女の子も関係なかったじゃないか、ということ。「男だから」「女だから」は、成長していく過程で周りから言われる言葉です。そうであるなら、私が大好きな「ヒーローもの」を、女の子のために作ってみてもいいのではないかと考えました。

初代『ふたりはプリキュア』でシリーズディレクターを務めたのは、『ドラゴンボールZ』などを手掛けた西尾大介さんです。西尾さんは、日常のちょっとした描写にも徹底的にこだわる人。キャラクターの言動がリアルかどうかに自信を持てなければ、女の子のいる家庭にヒアリングすることもありました。彼は、言ってみれば「プリキュアの近所に住んでいるおじさん」的存在なんですよ。彼女たちを神の視点のように「上から」ではなく、キャラクターの隣の「真横から」見て、一生懸命に応援している。キャラクターを自分の決めた枠の中に押し込めようとしないから、彼女たちがどんな景色にたどりつくのかは動かしてみないと分からない。その感覚は私も共有していましたし、シリーズを通して受け継がれていると思います。

プロデューサーの鷲尾天さん(左)、髙橋麻樹さん。オンライン取材でのインタビューに答えていただいた。プロデューサーの鷲尾天さん(左)、髙橋麻樹さん。オンライン取材でのインタビューに答えていただいた。

――今作『ひろがるスカイ!プリキュア』のキャラクターづくりで、こだわったところは。

髙橋 主人公のソラ・ハレワタール(変身後はキュアスカイ)は、運動神経が抜群の女の子。幼いころ、ピンチに追い込まれたときにある人に救われた経験があり、その人のような「ヒーロー」を目指して日々、鍛錬を積んでいるというまっすぐな性格です。ソラの相棒的な存在の虹ヶ丘ましろ(キュアプリズム)は、優しくて物知りな一方で、自分には「何も秀でたところがない」と思い込んでしまっている面があります。「初代」へのオマージュとして、序盤はこの2人の関係性を丁寧に描いていくつもりです。互いに心を通わせることで成長し、それぞれが自分らしさを発見していくようなお話にしていければと考えています。

鷲尾 「1対1」の人間関係が深まっていく様子って、時に衝突したり、うまく気持ちを伝えられなくて気まずくなってしまったりする局面も含めて、濃密ですよね。誰もが惹かれます。「ひとり」の状態から、いきなり10人や20人と心を通わせることはできませんから、いわば他者との関係を築いていく上での基盤になります。

実は私は「お笑い」が好きでして。漫才コンビの関係性は創作の参考にもなりますね。互いの担う役割、掛け合いの「間」はどんな感じか……。その場に醸し出される空気の中に、2人が積み重ねてきた歴史が詰まっている気がして。「この2人がここまで来るのに、どれだけのことがあったのだろう」と思いを馳せずにはいられない。ソラとましろも、魅力的な「ふたり」にしていきたいですね。 

アニメ『プリキュア』シリーズ20周年プロジェクトのメインビジュアル。左上が初代『ふたりはプリキュア』アニメ『プリキュア』シリーズ20周年プロジェクトのメインビジュアル。左上が初代『ふたりはプリキュア』

――変身後の姿のメインカラーは、ソラが青、ましろは白です。初代の2人は黒と白、『トロピカル~ジュ!プリキュア』(2021~2022年放送)の主人公は白、といったように例外はあるものの、基本的に主人公にはピンクが使われることが多かったと思います。「脱ピンク」の意図はあったのでしょうか。

髙橋 歴代の主人公と比較すると、確かに目立ってはいると思います。ただ、ことさらに「脱ピンク」を意識したわけではありませんでした。「空」がモチーフだったので、憧れのヒーローを目指してまっすぐに進んでいく主人公のキュアスカイは「澄んだ青空」のイメージだよね、と。これに対して、キュアプリズムは「白い雲」のイメージです。キュアスカイが発する太陽のような光を反射して、さまざまな色へと変えられる人。「プリズム」という名前はそんな彼女の個性に由来します。キャラクターのデザインは、それぞれの性格や関係性を大切にしながらつくり上げていきました。

――狙って「逆張り」したわけではないということですね。確かに「攻めている感じを出すこと」ありきで考えていくと、表現の自由度がかえって下がってしまう気がします。

鷲尾 そう思います。マーケティングをすれば、ピンクはやはり人気ですけど、大事なのは、子どもたちがそのプリキュアを好きだと思ってくれるか、応援したくなるかどうか。制作する側としては、最終的に「キュア○○の色だから、この色が好き!」というところまで持っていかなきゃいけないという意気込みでやっていますよ。

――物語が進むにつれて仲間が増え「チーム」になっていきます。今作では史上初めて、「レギュラー」のメンバーとして一緒に闘う男の子のプリキュアが登場することも発表されました。鷲尾さんはシリーズ初期、ピンチで男性が助けに来てくれる展開を「禁じ手」にしていました。

鷲尾 男の子が一緒に闘うとなると、女の子が「頼っている」印象になることを避けたいと思っていたのです。男の子向けの作品で、ヒーローが助けを呼ぶことはないでしょう。それを女の子向けの作品に当てはめてみたわけです。一方で、20年間一貫して「女の子の自立」を描いてきたなかで、プリキュアではないけれど共に闘う男の子のキャラクターも生まれました。妖精もアンドロイドも、宇宙人もプリキュアになりました。長い積み重ねの中で、チーム内に肩を並べて闘う男子プリキュアがいたからといって、「女の子の自立」が損なわれるとは感じなくなりました。

初代の「女の子だって暴れたい」というコンセプトにも表れているように、このシリーズの根底には常に、世間や社会の流れに対するレジスタンス精神があるのだと思います。「女の子ってこういうものでしょ」と言われれば「いや、そうじゃない」と言いたくなる。それと同じで「プリキュアってこういうものでしょ」と言われると「いやいや……」と言ってみたくなる(笑)。

髙橋 私はプロデューサーを務めるのは今作が初めてですが、2014年公開の映画から、主にCG(コンピューターグラフィック)などの担当としてシリーズに関わってきました。ただプリキュアのことは、それ以前から視聴者の一人としても大好きです。地方から上京して、憧れのアニメ業界に就職して、日々の仕事で悩むこともたくさんあって……私自身がそんな毎日を過ごす中で、彼女たちが自分の足で立って頑張っている姿に何度も背中を押されました。「戦友」の感覚がすごく強いです。

今回は男子プリキュアのほかに、史上初めて18歳の「成人」のプリキュアも仲間に加わります。多様な個性であふれるチームが、どんなふうに育っていくのかにも注目してほしいです。

――大人のファンも多いシリーズで、私もその一人です。正直、プリキュアには信じ合える仲間がいてうらやましいな、と思うこともあります。人生には誰しも、孤立していると感じてしまう瞬間がある。それでも「自立して強くあり続ける」ことは可能だと思いますか。

鷲尾 私は可能だと思います。シリーズ初期のころ、自分の考えを周囲に思うように伝えられなかったり、理不尽だと感じる出来事が重なったりして、ディレクターの西尾さんに愚痴をこぼしていたことがありました。そうしたらあるとき、西尾さんが「鷲尾くん、正しいと思うことを無理に全部言おうとしなくてもいいからね。ぶつかると折れちゃうときもあるから」と声をかけてくれたんです。その上で「ただ、言わない間も、自分の頭で考えること、思うことは絶対にやめちゃだめだ」とも。

そこでハッとしました。あきらめずに思い続けることこそが、一番大切なのだと。もちろん、状況に抗えそうだと思えるときはそうしてほしいし、気持ちを分かち合える人がいるならばそれに越したことはない。ただ、表明するのが難しいときでも、考え続けること、思い続けることさえやめないでいられたら、それは「自立している」ということだと思います。これは、プリキュアという作品を通して私が伝えたいことでもあるかもしれません。

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悪を倒すのではなく、誰かの心の支えになるのが「ヒーロー」。プリキュア20周年作品『ひろがるスカイ』制作陣に聞いた。

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