「私のことを知って下さい」
そんなタイトルで、障害によって生じることもある様々な行動の特性を伝える山陽電車(山陽電気鉄道、本社:神戸市)の啓発ポスターがある。2021年から同社の全49駅に掲示されているものだが、最近になりSNSなどで再び注目された。
不特定多数の人が利用する電車や駅。急いで行き交うことも多いだけに、互いの背景や困っていることに思いを巡らせるのは難しいこともある。「知らない」からこそ感じる不安もあるだろう。そんな中で鉄道会社ができることは━━。山陽電車にポスター作成の経緯を尋ねた。
ポスターは、「障害からくる色々な特性があります 私のことを知って下さい」のタイトルで、以下のような行動の特性をイラストとともに説明している。
・「おおごえ」不安などで、聴覚が過敏になって耳をふさいだり自分の声で落ち着こうとしていることもあります。
・「うろうろ」不安で飛びはねたり気持ちが落ち着かないとき歩き回って平静を保とうとすることもあります。
・「いつもの場所」気に入った場所だと安心します。
・「ぶつぶつ」嬉しくて独り言で趣味の世界を楽しんだり出来事をくりかえし思い浮かべ気持ちの整理をしていることもあります。
・「あつめる」コレクションのようにチラシ等を集めることにこだわる人もいます。
電車内での具体的な状況が伝わる、わかりやすいイラストも特徴だ。
きっかけとなったある出来事
営業課の担当者によると、作成のきっかけは女性の乗客に男性の乗客の体が当たってしまったという数年前の出来事にあった。
大きな声を出されて体が当たったとして、女性の家族から「娘が怖い思いをした」という声が寄せられた。一方で男性の家族からは、男性には知的障害があり「迷惑行為などはしない」と伝えられた。そんな中で障害のある乗客にどう対応すべきか、頭を悩ませたという。
それまで同社では、知的障害や精神障害のある乗客への理解を求める内容のポスターは作ったことはなく、具体的な対応についての教習もしていなかった。そこで、理解を深めるための取り組みを全社的に始めることにしたという。
作成する上で工夫したことは?
取り組んだことのひとつが、係員たちの理解を深めること。知的障害のある子を育てる家族で作る「明石地区手をつなぐ育成会」の講師を招き、当事者の言葉の理解度や手の感覚、視覚や物の捉え方を学んだ。その上で、具体的な対応例を盛り込んだ教習用のDVDを作成し、すべての現場係員に教習を実施した。
教習を通して、前向きに行動しようという係員たちへの意識づけに繋がったという。
ポスターのデザインは車掌が考案。同会から、当事者を描くだけでなく「場面、周囲の状況もわかるようにしてほしい」といった指摘を受けた。当初のイラストには「どれも可愛すぎる。子どももいても良いが、大人で困っている人が多いので色んな人で表現して欲しい」という具体的なアドバイスもあったという。
こうした地道な取り組みを経てできたのが、現在のデザインだった。「私のことを知って下さい」というフレーズには、「障害者の方と同じ目線に立って」との車掌の想いが込められたという。
ポスター完成後は複数のニュース媒体で取り上げられ、「施設に貼らせて欲しい」「学校の授業で使いたい」といった声も寄せられた。鉄道の運転業務に関わる調査や知識の普及をしている日本鉄道運転協会の研究発表会でも取り組みを共有し、高い評価を得たという。
担当者によると、ポスターによって「目に見えて、お客さま同士のコミュニケーションが変化したというような事象の報告はない」という。SNSでは「心に留めておきたい」「まず知ることが大切だと思う」などとするコメントが広がった。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「私のことを知って下さい」山陽電車のポスターに反響。「障害者の方と同じ目線に」作成に込めた思いを聞いた