婚姻届を受理されない私たちは、遺言書を書かなければいけなかった――。
東京地裁で10月13日、「結婚の自由をすべての人に」裁判・東京2次訴訟の口頭弁論(飛澤知行裁判長)が開かれ、意見陳述をした原告の河智志乃さんが、これまでの人生で直面した「法律の壁」を語った。
この裁判では、全国5つの地裁・高裁で、30人を超える性的マイノリティが結婚の平等(法律上の性別が同じふたりの結婚)の実現を求め、国を訴えている。
河智さんはこれまで経験してきた差別や不平等を振り返り「安心を脅かされる状況に、いつまで耐えなければならないのか」と訴えた。
女性同性愛者である河智さんは、幼い時から異性愛を前提にしてきた社会に翻弄されてきた。
10歳の頃に、国語辞典に「同性愛」が「異常性欲、性倒錯」と書かれているのを見て、「恐ろしい言葉に立ちすくんだ」という。
「自分は異常なのだろうか」と怖くなり、異性愛者の仮面をかぶることを余儀なくされたという河智さん。成長して恋人ができても、人目を避けて隠れるように付き合った。
自己嫌悪に苦しみながらも「同性愛」を肯定しようとしていた河智さんが、16年前に出会ったのが現在のパートナー鳩貝啓美さんだ。
レズビアンであることを誇りに思い、セクシュアルマイノリティ女性のために活動をしている鳩貝さんの、凛とした姿勢や人柄に魅力を感じた。
ふたりで一緒に生きていくことを決めた時、最初に作った書類は遺言書だったという。
当時一緒に住んでいた河智さん名義の家を、鳩貝さんが相続できるようにするための手段だった。
「付き合って2年目で、異性カップルならば婚姻届を出すタイミングです。何が悲しくて、新婚のような2人が真っ先に遺言なんて用意せねばならないのかと嘆きながら書きました」
遺言書を作った後も、家族との衝突は避けられず、日々の生活の中で差別も経験してきた。
親にカミングアウトした時、父から返ってきたのは「『同性愛』は、言うのも聞くのも抵抗がある」という言葉。「多様な生き方があってもいい」と言ってくれた母も、レズビアンにはネガティブな印象を持っていた。
その後、両親は少しずつ理解してくれたものの「甥や姪にふたりの関係を明かさないでほしい」と言われ、激しい口論になったこともある。
また、職場では「客がネガティブな印象を持ってはいけないから」という理由で、上司からネット上に同性愛者として顔や名前を載せるのをやめるよう求められ、河智さんは早々に退職を決めた。
他にも、住宅ローンを借りようとした銀行に「親族関係しか対応しない」と断られたこともある。
河智さんと鳩貝さんは、人生な大事な場面で何度もそういった「結婚できない法律の壁」にぶつかってきた。
河智さんと鳩貝さんは2021年、若い世代には自分たちのような不平等や不利益を経験して欲しくないという思いから、「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告になった。
しかし、提訴から2カ月たった2021年5月、河智さんは突然「がん」を告知される。
恐怖と不安で押しつぶされそうになる中、河智さんが一番気がかりだったのが、鳩貝さんを配偶者と同じように扱ってもらえるかだった。
そのため、病院選びで優先したのは、専門性や実績ではなく、同性パートナーを確実に配偶者と同じに扱ってくれること。
幸いにも、家族として対応してもらえる病院が見つかった。河智さんは鳩貝さんの続柄が「内縁者」と書かれているのを見た時に、大きな安堵感を得られたという。
それと同時に、結婚の平等の実現が一刻を争う問題であることを改めて実感した。「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告には、河智さん同様にがんを経験した人や道半ばで亡くなった人もいる。
河智さんが落ち込んでに時に励ましてくれたレズビアンの先輩も、2021年に他界した。
河智さんは「誰もが、1年後にまたここにいるとは限らないのです。人生は、命は有限です。私はこの裁判に何年もかけて良いとは思えません」と強調。
「裁判官の方々には、判断を先延ばしにせず、目の前の人権を守ってほしい」と訴えた。
一方、被告である国は、法律上同性カップルの結婚を認めない理由を「婚姻の目的は、男女のカップルが子を産み育てる関係を保護するためのものだから」と主張している。
13日の口頭弁論では、原告側の弁護士が、この主張に改めて反論。
その理由として「1. 現行の婚姻制度では、自然生殖できるかどうかに関わらず、カップルに結婚を認めている」「2. 自然生殖だけではなく、養子縁組も子を持つ手段として認められている」「3. 憲法24条1項は、結婚したカップルの意思決定の自由と平等を保障している。国の主張通りであれば、結婚制度は子を産み育てる選択をするカップルの意思決定のみを保護していることになる」の3点を挙げ、国側の法解釈は矛盾していると指摘した。
他にも、国連機関から、結婚の平等を実現していない日本に是正勧告が出されている関わらず、改善される見通しが一切ない点を問題視。「司法が違憲判断を示すべきだ」とも述べた。
さらに国が「パートナーシップ制度や遺言などの制度を利用することで、不利益は一定程度緩和されている」とも主張していることについて「明らかに誤り」と反論。
沢崎敦一弁護士は、契約や遺言には専門的な知識や費用が必要なうえ、パートナーシップ制度には法律婚と同じ法的効果はなく「結婚の代わりにはならない」と述べた。
その上で、裁判所に「少数者の人権保障の砦としての役割を果たすべく、公正な判断を示してほしい。そうでなければ、性的少数者はいつまでも、結婚が持つ個人の幸福追求の意義を手にできず、社会の基盤から排除され続ける」と求めた。
【第1回】 娘を守るために嘘を重ねた。同性婚2次訴訟、初弁論で原告が訴えたこと
【第2回】 「自分は異常かも」と悩まなくていい社会に。同性婚訴訟、原告が訴える
【第3回】異性カップルなのに結婚できず、家族を守れない。同性婚訴訟でトランスジェンダー原告が訴えたこと
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共に生きると決意、まず作ったのは遺言状。女性カップルがぶつかってきた「法律の壁」【東京2次6回】