次元大介はルパンの敵だった。原作デビューから55周年

次元大介を表紙を飾った「ルパン三世DVDコレクション」VOL.43より

不朽の名作『ルパン三世』。凄腕のガンマン・次元大介の声を50年間担当していた小林清志さんは7月30日に死去したが、大塚明夫さんが2021年から大役を引き継いでいる

ソフト帽を目深にかぶったダークスーツ姿の次元は、「ルパンが最も信頼する相棒」として広く知られている。だが、55年前に原作漫画にデビューしたときは、そうではなかった。それどころか、ルパンの敵。「ルパン殺し」を自ら名乗る刑事だった。

一体、どういうことなのか。国民的な人気作品の知られざるエピソードに迫ってみよう。

■第10話「ルパン殺し」の内容とは?

次元大介が初登場する原作のエピソードは、『週刊漫画アクション』1967年10月12日号に掲載された。実際の発売日は、約2週間前の9月28日だったとみられる。その第10話「ルパン殺し」は、こんなストーリーだった。

警察署に派遣されてきた一人の刑事、その名は次元大介。通称は「ルパン殺し」だと自ら名乗った。ルパンの予告通りに事件が起きる中で、「まえよりムゴくなったな」と指摘する他の刑事に対して次元は「いや……やつのやりかたは前からムゴイのさ……」とつぶやき、「この事件は私が担当します」と宣言する。

タクシーの運転手に扮したルパンを的中させる次元。しかし、ルパンの策略で次元が乗ったままタクシーは崖底に落下していくが、実は次元も事前に脱出していて無事だった。お互いを出し抜く展開が続く。

高層ビルの鉄骨の上で直接対決。ルパンは「いままでのうちでいちばん気にいらねェデカだったぜアンタは……」「苦しまねェように殺してやるぜ」と、次元から奪った銃を撃つが、弾丸が後ろに発射されるように仕掛けをしてあったため、ルパンは死んでしまう。

ルパンの連れていた女性とベッドを共にする次元。銭形警部が追ってくるが、間一髪で逃げ出した。「くそ さすがすばやいな 本物のルパンは……」と銭形警部。そう、今回のエピソードに登場していたルパンは真っ赤なニセモノ。実は「次元刑事」こそが、変装したルパンだったのだ。

■「ルパンの友人」として2週間後に再登場

このように「ルパンの敵」としてデビューした次元だったが、2週間後に掲載された第12話「健在‥ルパン帝国」では、ルパンの友人として再登場を果たす。

土地の支配者「キング」に妹を人質に取られたせいで、不本意ながらルパンを殺害しようとする。「おさななじみのおまえを殺(や)ることはくるしいぜ」と言いながらピストルを向けるも、殺害は未遂で終わる。

続く第13話「王手飛車取り」では、ルパンと行動を共にして、ルパン1世が隠した「数十億の財宝」を手に入れようと動いている。女性に夢中なルパンを咎めるも、「いいか次元大介 このルパンの相棒になりたかったら……よけいな口出しはしねェこった!!」と逆に叱責されるシーンがあった。

第14話「魔術師」以降は、次元は「ルパンの相棒」として役割が固定化されることになった。

(※現在発売中の単行本では、連載時とは異なる順番で掲載されているので注意)

■「今思うと、ちょっと失敗した」原作者が明かした真相とは?

モンキー・パンチさん(2013年撮影)

一体なぜ、次元のキャラ設定が、くるくると変わったのだろうか。原作者のモンキー・パンチさんの生前のインタビューでの発言によると、1971年にアニメ化される前の『ルパン三世』は1話完結のつもりで描いていて、一貫したキャラクター設定にはこだわっていなかったという。

「ある程度の形が整ったのは、アニメーションで細かい設定が必要になってからです」と、「ミステリマガジン」2012年7月号(早川書房)で明かしている。

『週刊漫画アクション』2004年5月20日号の付録DVD。この中でモンキー・パンチさんは『ルパン三世』の次元らのキャラクターが当初は敵役だったのが仲間になったことについて、「意図して考えたわけじゃなくて、相棒が必要かなぁというので仲間にしちゃった」と振り返った上で、以下のように説明している。

「次元っていうのはね、確かあのときは刑事かなんかだったのかなぁ。今、思うとねぇ、ちょっと失敗したんです(苦笑)。初めからこうガンマンっぽいスタイルで出してきたかったなという気がするんだけど。僕の場合は1話、1話完結なんですよ。初めは刑事っぽく出てきても、次は全く違うストーリーとしてもいいだろうという考えだったものですから。先週描いたものは忘れちゃうんですよね。『また次、新しいの』って考え方で描くものだから。あれを全部、今まで描いたものを繋げると、つじつまの合わない物も出てくるんですよ。僕は1本の大河ドラマとしてではなくて、ひとつひとつ独立したストーリーとして描いてますからね」

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