「内容は素晴らしいけど、実現するためのお金はどこから出てくるんだろう」
「この政党は、現状を変える気がなさそう……」
「この回答は、差別を肯定していると思う」
「こっちの政党は、平等な考え方をしているんじゃないかな」
「『シングルマザーへの支援が必要』とはっきり書いているのが、グッドだね」
貧困や複雑な家庭環境の下で育つ生徒らに向け、「格差の連鎖を断つ」という目的で「反貧困学習」を実施している大阪府立西成高校(大阪市)。7月中旬、校内では1年の生徒がグループに分かれ、議論に熱中していた。
手元にはプリントが広げられている。
そのプリントに書かれているのは、同校の生徒が主要な政党に送った質問状への、各政党からの回答だ。
現状の制度への疑問を政党に
「シングルマザー支援について、政党の考えをお伺いしたい」
1年の生徒207人は6月下旬、そう問いかける質問状を、主要な9政党(自民、立憲、公明、維新、共産、国民、社民、NHK、れいわ)に送付した。締切とした参院選の投開票日の7月10日までに、れいわ新選組を除く8政党から回答が寄せられた。
同校によると、生徒の半数近くが母子世帯というクラスもある。シングルマザーやその子どもが直面する壁は、同校の生徒にとっては身近な問題だ。
そこで、同校では1年の「反貧困学習」の授業で、シングルマザーの経済状況や労働環境を解説。生徒からは、現状の制度などに疑問を呈す感想が相次いで寄せられた。こうした感想を取りまとめて質問状を作成し、政党に送付したという。
質問は6つ。
シングルマザーの収入の低さや労働環境を踏まえ、▽児童扶養手当を増やす▽女性の賃金を高くする▽(シングルマザーの非正規率が高いことから)非正規労働者の賃金を高くする▽シングルマザーが働きやすい環境を整えるーー必要があるかどうか、政党に尋ねた。
母親だけでなく子どもへの支援として、▽元夫が養育費を払うことを求める法律や制度をつくる▽母子世帯の子どもの進学を後押しするため給付型奨学金を拡充するーーといった対応への見解も問うた。
参院選後の授業で、生徒が質問状で求めた対応と各政党の回答が一致しているかどうかを評価するグループワークを実施。その上で、どの政党を最も評価するかを1人1人が考えた。「私たちを差別せず、社会が平等になるように考えているかどうか」「現状を変えるつもりがあるかどうか」などを評価軸にした生徒もいた。
「現実とのギャップ、一体なぜ?」
生徒から高評価を集めた政党の内訳と、7月の参院選の結果は異なっていた。
授業を担当した大西洋輔教諭は実際の選挙の結果を解説しながら、「このクラス内の政党への評価と、実際の選挙結果の間のギャップはなぜ生まれたのか、考えてみてほしい」と問いかけた。
授業を受けた男子生徒(15)は「政党によって、こんなにも考え方が違うことに驚いた。何を優先しようとしているかが、まるで異なる」と目を丸くした。「(18歳で投票権を得たら)みんなが生活できて、幸せになれる社会をつくろうとしている政党を見極めて票を入れたい」
女子生徒(15)は「選挙に行くときになって、わからないことだらけだと困る。高校でたくさん勉強して、政党の主張や公約をしっかりと理解できるようになりたい」と力を込めた。
自分の生活と政治を結びつけて
現役の高校生や高校卒業直後の若者の投票率は低迷している。総務省によると、2022年7月の参院選では18歳と19歳の投票率は34.49%(速報値)にとどまり、全体の投票率(52.05%)を17ポイント下回った。
カギを握るとみられるのは、有権者としての政治への関心や参加意識を育てる「主権者教育」だ。18〜20歳の若者3000人を対象にした2016年の総務省の調査によると、高校で選挙や政治についての授業を受けた人の投票率は、受けなかった人の投票率よりも高かった。
2016年に選挙権年齢が「満18歳以上」に引き下げられたことで、主権者教育は高校に浸透してきている。文部科学省の調査によると、全国の国公私立高校のうち、高3に主権者教育を実施している学校は2019年度時点で96%を占めた。
ただ、その多くは公職選挙法や選挙の具体的な仕組みを学ぶのみにとどまっていた。高校生らがより実践的な内容を学べるかどうかは課題だ。
西成高校で「反貧困学習」を統括する肥下彰男教諭は「架空の政党や候補者の中から投票先を選び、投票箱に票を入れる。そんな練習が実践的な主権者教育になるとは言えない」と指摘。その上で、「必要なのは、生徒が自分や家族の生活と政治を結びつけて考える力をつけること。そのための学び方を、これからも模索していく」と話している。
政党からの回答(抜粋、西成高校教諭による要約)
シングルマザーの収入は低く、現在の児童扶養手当は不十分で額を増やす必要があると思いますが、どのように思われますか?
- 自民「財源(お金)については足りるか検討しないといけないが、手当だけではなく、就労支援や生活支援など、いろいろな支援が必要だと思っている」
- 立憲「賛成です」
- 公明「就労支援を充実させるとともに、居住支援などのいろいろな生活支援を行う。また、児童扶養手当の充実を目標にする」
- 維新「出産費用や教育費用を無料にするなど、子育て支援を手厚くすべき。シングルマザーへの支援の充実も必要」
- 共産「収入によらず、また何人目かにもよらずに支援を充実させる。また、支給の間隔を短くし(現在年6回→毎月)、支給される年齢を20歳までにするべき」
- 国民 記載なし
- 社民「現状の支給ではぎりぎりの生活になるので、2人目の子どもからの減額分を見直して、額を増やすべき」
- NHK「不十分かどうかは生活条件によって差があるので、一概には言えない。そのうえで、現状の給付額や水準を維持するべき」
元夫で養育費を払っているのは2割程度とのことですが、養育費を払うような法律や制度をつくる必要があると思いますが、どのように思われますか?
- 自民「子どもの成長に大きくかかわるので、適切な形で取り決めて実行されるようにすべき。ひとり親の支援強化や確実な支払いができるシステムを提案している」
- 立憲「賛成です」
- 公明「養育費の取り決めなどの制度を見直す。また、相談体制の整備や不払いの解消に向けた法律や体制を作り出す」
- 維新「不払いについては、国が立て替えた上で不払い者に強制執行(無理やり徴収)できる制度を作るべきと考えている」
- 共産「取り決め通りに行われることが少ない現状があるため、海外で行われているような立て替え制度や養育費取り立てを援助する制度を作る」
- 国民 記載なし
- 社民「海外ではペナルティーが存在するため、日本でも同様の法律を作り、国が立て替えた上で、シングルマザーの生活保障をすべき」
- NHK「現状の民法(法律)での対応に任せるべき。不払いに限定して何かする法律は今のところ要らないと考える」
母子家庭の子どもが進学できるように返済しなくていい給付型の奨学金制度を拡充する必要があると思いますが、どう思われますか?
- 自民「在学中には授業料を取らず、卒業後自分の稼ぎに応じて返済できる方式を導入していく。そのために、安定した財源(お金)を確保する」
- 立憲 「賛成です」
- 公明「利子の一部を国が負担。また、希望すればだれもが大学等へ進学できるように、返済の要らない奨学金や授業料を減らすなど、支援を充実させる」
- 維新「短いスパンで見ると、給付型奨学金の充実には賛成。それよりも、子育て世帯に教育費が重くのしかかることが問題。教育費の無償化にも力を入れたい」
- 共産「奨学金を無利子にし、返済が困難になった際は返済額を減らす制度を作る。また、大学・短大・専門学校の学費を引き下げ、無償化を目指す。入学金もなくす」
- 国民「すべての子供が平等なスタートラインに立てるよう、出産・子育て・教育にお金のかからない国を実現する。そのために、高校までの教育を無償化する」
- 社民「母子家庭の子どもたちが安心して進学できるよう、給付型奨学金を充実させる。また、返済に苦しむ人に一定期間後の返済を免除する制度を導入する」
- NHK「母子家庭のみならず給付型の奨学金制度の拡大は必要だと思う。ただし、学力や能力は高い基準を設定するべき」
れいわ新選組からの回答はなかった。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉
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「私たちを差別しない政党はどこ?」「現状変えて」西成高校1年生が政党にアンケート。回答に生徒たちが思うこと