8月に子を授かるレズビアンカップルの原告。結婚の平等訴訟に「次世代のためにも、婚姻以外も平等な社会を」

結婚の平等訴訟の大阪原告である坂田麻智さん(左)と坂田テレサさん。テレサさんは8月に出産する予定だ。

法律上の性別が同じふたりの結婚が認められていないのは、憲法が定める法の下の平等などに違反するとして、30人以上の性的マイノリティが国に賠償を求める「結婚の自由をすべての人に」裁判の判決が6月20日に、大阪地裁で言い渡されます。

この「結婚の平等」を求める訴訟は、全国5つの地裁・高裁で裁判が進んでいて、大阪地裁では3組の同性カップルが原告となっています。

原告の1組、レズビアンの坂田麻智さん(43)と坂田テレサさん(39)は、嬉しかったことや苦しいことなどを共有しながら、京都市内の古民家で一緒に暮らしています。

2人は2015年、テレサさんの出身国であるアメリカで結婚。自分たちの関係をオープンにし、友人や近所の人にも「家族」として認知されていますが、日本では法律上「他人」のままだといいます。

テレサさんは8月に出産を控えており、近々新たな家族を迎え入れるという2人。国に訴訟を起こす理由について、「もちろん、私たちが結婚をしたいという思いは前提としてあります」とした上で、こう続けます。

「結婚できないという背景には、国による性的マイノリティへの差別があると感じてきました。不平等な制度や法が、心ない差別や偏見につながることもあると感じてきました。今を生きる、もしくはこれから生まれてくる子どもたちのためにも、この裁判を通し、結婚だけでなく、いろんなことが平等な社会を作っていきたいんです」

◆2人は“生涯のパートナー”

休みの日に出かける麻智さん(右)とテレサさん

2人は2008年の夏、共通の友人の紹介を通して出会いました。アウトドアなどの趣味や食の好みなど共通点が多く、笑いや悲しみ、憤りなどを感じる「ツボ」も近かったといい、2人は「初対面でビビッときて…なんて、ロマンチックなことはなかったですが(笑)、一緒にいるうちに、この人となら楽しく生きていけるなと思いました」とほほ笑みます。

麻智さんは、テレサさんについて「すごく愛情が深くて、一緒にいると安心するんですよね」。将来を思い描く中で一緒に暮らしたい家のイメージも似ていたといい、2009年には京都で同棲を始めました。

テレサさんも「こんなことを言ったら、不機嫌にさせてしまうかな…」といった心配をせずに、本音を言えるパートナーは麻智さんが初めてだったといいます。2010年には「麻智は私の“生涯のパートナー”なんだな」と感じ、日本でずっと一緒に暮らしていこうと決めました。

◆アメリカで結婚、京都市でパートナーシップ

東京レインボープライド2022に参加したテレサさん(右奥)と麻智さん。パレードはともに大阪原告である田中昭全さん、川田 有希さんと一緒に歩いた

古民家で愛犬を育て、時に愚痴を言い合い、休みの日にはどこかに遊びに行くーー。そんな、どこにでもあるような幸せな日々を過ごしてきた2人。実態は家族そのものですが、女性同士であるため、日本では結婚ができません。

「若い頃は、結婚という形にとらわれなくても、一緒にいられるだけでいいんじゃないかと考えていたこともありました」と振り返る麻智さん。

ですが結婚ができないことは、お互いが法定相続人になれないなど、将来的な不安を生み出すことも意味します。テレサさんと生活をともにする年月や年齢を重ねる中で、「ふたりの関係を証明する何かがほしい」と思うようになりました。

テレサさんも同じ思いだったといい、2015年に全米で同性婚が認められたことをきっかけに、故郷であるオレゴン州で結婚式を挙げました。テレサさんは、少しでも麻智さんとパートナーであることを示す要素が欲しいと考え、最近苗字を「坂田」に変更しました。

京都市でパートナーシップ宣誓制度を利用し、門川大作市長(中央)と記念撮影する麻智さん(左)とテレサさん

また2020年9月1日には、京都市が「パートナーシップ宣誓制度」を導入した初日に、パートナー宣誓をしました。麻智さんは「制度は、LGBTQフレンドリーなまちづくりをしていくという宣言という意味合いもあると思っていて。だからこそ、京都市の導入は嬉しかったですね」と笑みをこぼします。

◆「国がLGBTQの人権を認めたくないのでは」

「ハッピープライド」と思いを掲げ、名古屋レインボープライドに参加した2人。近年は地方でもプライドイベントが増えている。

認定NPO法人『虹色ダイバーシティ』などによると、パートナーシップ制度は2022年3月31日時点で全国209自治体が導入し、人口カバー率は52.1%となりました。この制度は公営住宅の入居資格や、公立病院でパートナーの手術の同意などができることが期待されるものの、法的拘束力はなく不十分だという指摘も。性的マイノリティが安心して暮らすには、同性婚の実現も不可欠といいます。

全国の自治体では、LGBTQの人権を擁護する制度が広がり、2021年3月には札幌地裁が「同性婚できないのは憲法違反」との違憲判決を下したものの、国でレベルでは具体的な改善策は議論にはなっていません。また同年、「LGBT理解増進法案」の国会提出も見送られています。

麻智さんとテレサさんは、国が「伝統的に生殖と子の養育を目的とする男女の結合であった」と反論していることなどから、「地方自治体は当事者の人権のために動き始めているのに、国は自分たちが『普通』と定義する、もしくは利益になると思っている人たちの存在しか認めたくないのだと感じます」と指摘します。

また麻智さんは高校2年生の時、初めて同級生の女の子を好きになったことを思い返します。交際することになったものの、周囲の影響で同性愛者は印象が悪いものだと感じており、自分がレズビアンであることを受け入れられない自分もいたといいます。

「国がLGBTQの権利を認めないことで、性的マイノリティを差別しても良いという認識を生み出し、温存している側面もあると感じています」

◆「自分たちはラッキーだった」で終わらせたくない

2人で、いろんな地方に赴いている。

「どうして原告になったんですか?」

時に「幸せそうなのに、なんで?」というニュアンスを含ませ、聞かれることもあるといいます。

麻智さんとテレサさんは、「声を上げなければ、社会は変わりません。ですが、そうしていくのはハードルも高い。だからこそ、周囲に恵まれている自分たちなら、声を上げられるんじゃ…と思いました」と答えます。

2人は2014年に、地元紙に大きく2人の記事が載ったことをきっかけに、近所の人に知ってもらい、支えられているといいます。また麻智さんは、アメリカで結婚式をするタイミングで、母親にカミングアウト。「頭では分かっているけれど、心は追いついていない…。でも理解したい」と率直な気持ちを伝えてくれ、以来、裁判のことも見守ってくれています。

2人は、こう語ります。

「私が20代だった頃、20年後ぐらいには日本でも同性婚ができるようになると思っていました」

「自分たちはとてもラッキーで、周囲に恵まれていて、すごく感謝しています。でも自分たちのことで満足して、何もしないでいると、現状は変わらないと思うんです。それを繰り返した先にあるのが今の現状なのかなって、苦しくなる時もあります」

◆次世代のためにも、平等な社会を

2020年に京都市役所で、パートナーシップ宣誓制度の証明書を手に記念撮影する2人。今後も結婚できる社会を目指して活動していく

テレサさんは友人のゲイカップルから精子提供を受け、現在妊娠しており、8月に出産する予定です。2人はもちろん、仲の良い近所の人も「困ったらなんでも言ってね」と声をかけてくれるほど、新たな命の誕生を心待ちにしています。

一方、テレサさんがアメリカ国籍であること、日本で同性婚が認められていないことにより、生まれてくる子どもには、共同親権もダブル国籍もとることができないといいます。

今後、相続や子育て以外の場面でも、思わぬ形でいろんな制約がかかり、国が認める異性の夫婦とは不平等に扱われるかもしれません。テレサさんが苗字を「坂田」に変えたのは、生まれてくる子どものことを考えた選択でもあります。

2人は「結婚できないということは、国が差別を容認していることでもあると思います」とした上で、こう訴えます。

「自分たちの子どもだけでなく、今生活している、もしくはこれから生まれてくる子どもに、差別や不平等が当たり前な世の中を残したくないと強く思います。自分の選んだ人と結婚できるとか、差別をされないとか、そういった社会を当たり前にしていきたい。私たちにとってこの裁判は、結婚だけでなく、『平等』を求めるという思いも込められています」

<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>

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8月に子を授かるレズビアンカップルの原告。結婚の平等訴訟に「次世代のためにも、婚姻以外も平等な社会を」

Takeru Sato