「LGBTQ差別の企業の出展はおかしい」ゲイ当事者が『アクサ』と実行委に抗議【東京レインボープライド2022】

『アクサ損害保険』と『TRP実行委』に抗議活動をした孝則さん

日本最大級のLGBTQイベント『東京レインボープライド(TRP)2022』(4月22〜24日、代々木公園)の2日目となった23日、ゲイの孝則さん=仮名=が保険会社などを運営する『アクサグループ』と『TRP実行委員会』に対し、抗議活動を行う一幕があった。

孝則さんは『アクサ損害保険』で自動車保険を更新する際、同性パートナーを配偶者として認められなかったといい、同社が出展する企業ブースの前でプラカードを持って「LGBTQフレンドリーを謳い、TRPの大きなスポンサーとなっている企業が、セクシュアリティによる差別をしていることに、大きなショックを受けました」「TRP実行委員会にも、どれだけ当事者に対する取り組みを進めているかなど、LGBTQコミュニティへの貢献度をしっかり見て、スポンサー企業の選定をしてほしい」などと訴えた。

TRP実行委員会は、「スポンサーへの妨害行為があった」として警察に連絡。警察官は「抗議活動は問題はない」と判断した。

孝則さんは「LGBTQが生きやすい社会を作りたいという思いで開催されているはずのTRPで、当事者が声をあげたことに対し、実行委員会が警察を呼んだことも、言論弾圧的な体質を感じますし、非常に悲しいなと思いました」と話す。

『アクサ損害保険』は孝則さんから抗議を受けた後、今年中に同性パートナーも配偶者として認める方針を孝則さんとハフポスト日本版に明かした。

TRPに出展する企業は、宣伝目的が強く、実態が伴っていないのではーーといった指摘は以前からあった。専門家からは「現時点でLGBTQフレンドリーの取り組みが100点満点だからTRPに出ているのではなく、満点を目指す成長過程として出展するという側面もある」「TRPは当事者の実情を知ったり、思いを直接聞いたりできる貴重な場。だからこそ意見に耳を傾けて、取り組みに生かしてほしい」といった意見があがる。

◆LGBTQフレンドリー企業に認められないショック

孝則さんの思いが書かれたプラカード

孝則さんは同性パートナーと2018年から同棲し、2020年に「パートナーシップ制度」を利用した。2022年3月、自動車保険を更新する際、保険適用を本人と配偶者のみにすることで、保険料金が安くなる「配偶者限定特約」の制度について、孝則さんは同性パートナーも対象になっているか複数回問い合わせたが、「利用することはできない」と回答があった。

孝則さんはそれを踏まえ、『アクサグループ』のブース前でプラカードを持ち、社員やイベントに参加する人に向けて、こう思いを語った。

「自動車保険業界では近年、同性パートナーを配偶者として認める企業が増えています。『アクサ』はグループとしてTRPにも出展しており、断られるとは思っていませんでした。異性カップルは受けられる配偶者へのサービスが性的マイノリティーにないのは経済的な面でも不公平だと感じます。何よりも、パートナーを他人扱いされたように感じ、大きなショックを受けました」

悲しい思いを強くしたのは、『アクサグループ』が、TRP実行委員会に「プラチナスポンサー」として認められ、ブースの設置位置などの優遇を受けていることも大きい。 

『東京レインボープライド2022』のホームページ。『アクサグループ』はプラチナスポンサーとして掲載されている。

孝則さんは「LGBTQフレンドリーを謳いながら、同性パートナーを配偶者として認めないのは矛盾で、差別的だとも感じます。今回の抗議は、TRP実行委員会に対するものでもあります。LGBTQに対する取り組みが十分とは言えない企業が、お金を出すだけで大きなスポンサーになれてしまうことは、実行委が差別を容認している面もあるのではと、危機感がありました。一方で利潤を求めず当事者のために懸命に活動する団体は、費用面からも、光の当たりにくい場所でのブース出展が多い。スポンサー認定などについて、LGBTQコミュニティへの貢献度もしっかりと踏まえて判断してほしいです」となどと訴えた。

『アクサグループ』の職員は孝則さんの抗議に対し「事実確認がまだできていないのでやめてください」などと声をかけた。会場を巡回していたTRP実行委は「スポンサーへの妨害行為」として警察に連絡し、抗議活動をやめるよう求めた。実行委は「別の参加者からの通報依頼を受け、イベント参加者の皆様の安全等万一を考えて警察に連絡いたしました」と説明する。

警察官は孝則さんの話を聞いた上で、「つらい思いにあわれたのは、孝則さんの方だったんですね」と声をかけ、抗議活動は問題ないと判断した。

孝則さんはTRP実行委に「平和のLGBTQの祭典で、スポンサーや来場者の安全を脅かすのはやめてください」「スポンサーに迷惑をかける行為があったので、止めにきました」などと言われたという。

「そもそもLGBTQフレンドリーの取り組みがしっかり整った上で出展していたら、悲しい気持ちにはならなかったし、抗議もしなかった。LGBTQの祭典だからこそ、当事者の思いにしっかり向き合ってほしかったです」 

抗議活動では、TRP実行委員会にも問題があると主張した

◆「制度を変えるのは難しい」企業内の葛藤

 『アクサグループ』は、保険を扱う『アクサ損害保険』『アクサ生命』『アクサダイレクト生命』の3社合同で、TRPにブースを出展している。

ブースでは生命保険について、今後のライフプランと保険に関する相談窓口を設置。生命保険については少なくとも5年以上前から、同一生計であれば同性パートナーも配生命保険の受取人として指定できるという。

自動車保険は、4月23日時点では同性パートナーを配偶者に指定することはできないという。だが以前から、社内で意見があがっていたといい、2022年中には配偶者として認めるような制度設計を進めていたという。

『アクサ損害保険』の広報担当者は「セクシュアリティなどに関わらず、多くの人が安心して利用できるよう、変わっていくことは重要だと感じています。TRPに出展するからには、それまでに制度設計を進めてほしいという声もありましたが、約款を変える必要もあり、なかなか難しい側面もありました」と話す。

◆「TRPは企業が当事者の声に向き合い、成長する過程の場でもある」

日本労働弁護団常任幹事の市橋耕太さんは「当事者がイベント内で抗議をすることは、場合によっては威力業務妨害になることはあるものの、基本的に法律上は問題ありません。ただ、今回はTRPの中での抗議活動ということで、判断はTRP実行委員会の運用方針に基づくと思います」と話す。

TRPに出展する企業の取り組み不足や不用意な発言は、以前から指摘されていた。性的マイノリティに関する情報を発信する「fair」代表理事の松岡宗嗣さんは「LGBTQフレンドリーを謳う以上、当事者からの期待は高まり、だからこそ制度が不足している場合には落胆し、批判が起きるのは自然だと思います。また、抗議をすることに対してさまざまな意見があるとは思いますが、今回のように声を上げないとなかなか実情が変わらないという側面もあります」と話す。

「他方で、TRPが始まる前に、制度が改善されるべきという意見は最もであるものの、企業の内部もそれぞれ事情があり、簡単には進められない場合もあるでしょう。今回はTRPと企業全般に対する問題提起も含まれていると思います。取り組みが“完璧”でなくても、もちろん協賛や出展をしてほしいと思いますが、他の企業も含めて今回のような声が上がることを念頭に置きながら、より一層取り組みを進めてほしいと思います」

LGBTQフレンドリーを目指す企業の支援をする『OUT JAPAN』代表の屋成和昭さんは、「企業がTRPに参加する意義の1つに、LGBTQフレンドリーという姿勢を社会に示すことがあげられます。外に発信することで、今は関心のない内部の社員らを巻き込んで、会社の空気を変えていくことが期待できると思います」と指摘。

「現時点で100点満点だから、TRPに出ているのではなく、100点を目指す成長過程として出展するという側面もあると感じています。例えば普段、当事者だと明かしている人に会う機会のない方にとっては、いろんな性の人が当たり前にいるTRPという場が、価値観が変わる機会になるかもしれません。LGBTQ当事者から直接、いろんな意見をもらえる場でもあると思うので、それを企業改革に活かしてほしいと思っています」と話す。

◆TRP実行委はLGBTQフレンドリーの判断基準について回答せず

ハフポスト日本版はTRP実行委員会に、イベント内で抗議が起こったことへの受け止めや、スポンサー企業の選定過程などについて複数の質問をした。

TRPに出展する企業団体の選定基準について、実行委はメールで「弊団体の活動目的、LGBTQをはじめとするセクシュアル・マイノリティの存在を社会に広め『“性”と“生”の多様性』を祝福するという、TRP2022の趣旨にご賛同いただけること、その他弊団体所定のルールを遵守していていただける企業・団体様に出展してもらっています」と回答。

孝則さんが「TRPについても問題提起をしたい」と話していることについては、「現時点では、抗議された男性からの具体的な問題提起の内容を伺っていないため、回答はできかねます」とした。だが孝則さんは23日、TRPの代表者の1人と具体的な内容について話しており、「思いは分かるけれど、方法が難しいよね」「LGBTQコミュニティへの貢献度を取り入れることは、今後の検討課題にできるかもしれない」といった会話があったという。

「出展する企業の審査について、LGBTQフレンドリーの取り組みをどこまで確認しているのか」「当事者から企業ブースに抗議があったことについてどう受け止めているか」「どのような基準をクリアすれば、『プラチナスポンサー』に認定されるのか」といった質問については、回答はなかった。 

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Takeru Sato