「石炭産業に融資しないで」だから私は銀行口座を変える。“ダイベストメント”に日本のメガバンクはどう向き合うのか。

“ダイベストメント”という言葉を聞いたことがありますか?

「インベストメント」(投資)の対義語で、直訳すると「投資撤退」を意味します。

「ESG(環境、社会、企業統治)」を重視して投資を行う「ESG投資」の考え方が世界的に広まっていますが、こうしたESGに反するような企業への投資を引き揚げる「ダイベストメント」も活発になっています。

特に、石炭や石油などの化石燃料産業からの「ダイベストメント」。日本を含む約190の国・地域が批准している、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べ1.5℃に抑えることを目標とする「パリ協定」が発効して以降、温室効果ガス削減に向けた動きの一環として加速しました。

欧米では、金融機関や保険会社が、石炭をはじめとする化石燃料産業からのダイベストメントを発表しています。

オランダの大手年金基金ABPは2021年10月、化石燃料に関連する企業への投資をやめると発表。プレスリリースによると、石油やガス、石炭の生産に携わる企業が対象で、関連資産を徐々に処分し、総額150億ユーロ(約2兆円)を超す見込み。これは、ABPの総資産のほぼ3%に相当するといいます。

ダイベストをするのは、もちろんCO2の排出を削減し、気候変動への対策を講じるためですが、投資家として意思を表明し、企業側に変革を迫る狙いもあります。

こうした動きは欧米だけのものではなく、日本の金融機関も無関係ではありません。

【この記事に書かれていること】

☑️ 日本の銀行も「ダイベスト」が無関係ではない理由

☑️ 実際に銀行口座を閉じることを決意した人の思いとは?

☑️ メガバンク3行は「ダイベスト」をどう受け止めているのか

ドイツの環境NGOが行った調査結果によると…

ドイツの環境NGO「Urgewald」によると、2018年10月〜2020年10月の間、世界の石炭産業に対して融資を行った民間銀行のうち、日本の3メガバンクが上位3位を占めているとの調査があります。

1位 みずほフィナンシャルグループ 22,244(百万ドル)

2位 SMBCグループ 21,222(百万ドル)

3位 三菱UFJフィナンシャル・グループ 17,929(百万ドル)

4位 シティグループ 13,508(百万ドル)

5位 バークレイズ 13,396(百万ドル)

こうした状況を背景に、実際にみずほ銀行の自身の口座を閉じ、別の銀行にお金を移すことを決めた人がいます。

沖縄在住で、アウトドアやスポーツ、環境にやさしいファッション関連の企業を中心にコンサルティングを行う会社のCEOを務めるエリック・コーピエルさん。

ビジネス用と、プライベート用の2つのみずほ銀行の口座を閉じる予定です。

エリックさんはなぜ口座を閉じようと思ったのか。銀行側に望むこととは?その思いを聞きました。

1億円以上の預金を引き揚げ…「自分も変えられる」と思って

「みずほ銀行は、世界トップクラスで石炭産業への融資をしています。これは環境にいいことではありません。だから私のお金を、プライベート用の口座も、会社が持っている口座も、他行に移すことで、ダイベストしたいと思いました」

エリックさんは、口座を閉じる理由をこう語った。エリックさんの口座には、総額1億円以上の預金があったという。

エリックさんは口座を閉じる前の2021年12月、上記のような思いをつづり、環境に配慮した行動をとるよう求めた手紙をみずほ銀行に送っている。

2月9日夕までに、みずほ銀行からの返信はないという。

プライベート用だけではなく、ビジネス用口座も閉じるエリックさん。その準備を進めてきたが、「これはすごく大変なことでした」と苦笑いする。

「クライアントからの請求書など、従来のみずほ銀行の口座宛てで送られてくるので、書き直してもらったり、振り込み先を変えてもらったり…。事務所の家賃や水道代など、自動引き落としになっているものも一つずつ全て変えなくてはいけませんでした」

しかしエリックさんは「難しい方がある意味いいんじゃないかと思うんです」と話す。

「口座を変えることでこんなにもたくさんのステップを踏まなきゃいけなくても、『でもしている人がいる』ということがわかれば、『自分も変えられるな』って思ってもらえるんじゃないか」

「特に、若い人たちに知ってもらいたい。たまに振り込みで使うくらいのユーザーの方々に、『こんなに大変な思いをしてまで変えたんだ、それに比べたら自分にとっては口座を変えるのは簡単なステップだな』と感じてもらえたらと思っています」

「どうしたら環境を守りながらビジネスができるか」へのシフトを

なぜ、日本のメガバンクの石炭産業への融資額は世界でも上位を占めているのか。

ダイベストに関するキャンペーンに取り組み、メガバンク3行に向けた期間限定の電話キャンペーンも展開する国際環境NGO「350Japan」は「欧米の銀行では、化石燃料関連のプロジェクトに携わる企業そのものへの融資を制限する動きがありますが、日本のメガバンクでは『原則、新規の石炭火力発電のプロジェクトには融資しない』などプロジェクトごとの融資を制限するものの、そうした企業への融資は制限していません」と述べ、“抜け道”があると指摘する。

エリックさんは「私の予測ですが」と前置きした上で、「多くの世界の銀行などが化石燃料関連からダイベストする動きがありますが、そういったダイベストが進むと、まだ融資してくれるところには経済的な利益が残っているのではないでしょうか」と語った。

そして、こう付け加えた。「そうしたことについてよく勉強をしている顧客が多い国では企業のイメージが悪くなります。でも、日本ではそうした動きについてあまり知らなかったり、あるいはもし知っていても、私のように口座を閉じるような行動をしたりする顧客が少ないのかもしれません」

エリックさんが、銀行側に望むのはどのような行動なのか。

「ビジネスに対する考え方を変える必要があると思います。『何をしたらまだ許されるか』ではなく、『どうしたらみんなでシェアしている環境を守りながらビジネスができるか』というように考えを変える必要があります」

「また、そのビジネスのやり方を転換するというチャンスを、未来についてしっかりと考えている投資家や顧客を呼び寄せるツールとして使う必要があるのではないでしょうか」

「端的に言えば、石炭産業に融資することをやめて、もっとグリーンでクリーンなエネルギーに融資する。エネルギーでなくても、グリーンでクリーンな、環境にいいビジネスに融資をする。そうやって投融資先を変えて、またそうしたということを顧客に伝えていく。私たちはこんなふうにポリシーを変えて、こんなふうに進んでいきますということを見せていくということが大事なんじゃないかと思います」

エリックさんは近く、みずほ銀行の口座を閉じ、環境に配慮した融資を最もしていると判断した楽天銀行の口座に移すという。

機関投資家としてESG投資に携わる「りそなアセットマネジメント」責任投資部長の松原稔さんは、ダイベストの動きと金融の責任についてこう指摘する。

金融がステークホルダーとの対話を進めることが、課題解決を進めていく上で重要ではないでしょうか。それは、どんな世界を次の世代に渡したいのかという視点も含めて、ステークホルダーとの対話を通じて、金融が共に考える必要があると思います」

“ダイベスト”にメガバンク3行はどう向き合うのか

こうしたダイベストの動きやNGOの調査に対し、メガバンク3行はどう受け止めているのか。ハフポスト日本版は3行に対し質問状を送り、見解をたずねた。

「Urgewald」の調査で、最も石炭産業に対して融資を行ったとされたみずほFG。

この調査結果に対し、「融資取引のうち一部の情報のみを集計している」「石炭鉱業事業や石炭火力発電事業と関係のない運転資金が含まれている」などとして、「本レポートの記載は実態にそぐわず、当該金額の正確性・適切性に問題がある」との見解を公表している。

日本の大手銀行でトップ3を占めている状況をどう受け止めるかとの問いに対しては、「気候変動が金融市場の安定にも影響を及ぼしうる最も重要なグローバル課題の一つであるとの認識のもと、環境・気候変動への対応を経営戦略における重要課題として位置づけ、さまざまな取り組み強化を行っています」と回答した。

三井住友銀行(SMBC)は同じ問いに対し、「特定の開示に記載されている内容についてのコメントは差し控えさせて頂きます」と回答。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、「中期経営計画の中心にサステナビリティ経営を位置づけ、2021年5月のカーボンニュートラル宣言により、2050年までの投融資ポートフォリオネットゼロにコミットした最初の邦銀です」などとした上で、「今後も各種国際ガイドラインに沿った科学的なアプローチでの目標設定及びお客さま含むステークホルダーとの対話を進めながら、リーディングバンクとして日本の脱炭素化に貢献して参ります」と回答した。

環境に配慮しない融資を実施する銀行からのダイベストの動きについては、どう受け止めているのか。

みずほFG「脱炭素社会の実現に向けた投資家等ステークホルダーからの様々な期待・要請を踏まえ、経営課題として、気候変動対応を継続的に強化して参ります」

SMBC「欧米ではダイベストメントの動きがあることは認識しています。当社も気候変動対策の強化の一環として、2021年5月には長期のロードマップを策定し2030年までに当社グループが排出する温室効果ガスのネットゼロの実現、2050年までには投融資ポートフォリオ全体でもネットゼロを実現することをコミットしており、当社のお客様やステークホルダーとのエンゲージメントを通じ、自社およびお客様の脱炭素化へ向けた取り組みを推進し、カーボンニュートラルな社会の実現に貢献していきます」

MUFG「融資のダイベストを目標達成の最適な方法だとは考えておりません。お客さまご自身による既存事業からのGHG排出量削減努力のみならず、新たに再エネ事業を拡大する取り組み等も脱炭素化に向けた重要な取り組みと認識しております。MUFGとしては、こうしたお客さまの取り組みを支援することで、目標達成を目指して参ります」

【メガバンク3行への質問と回答全文はこちら

「ポリシーの不十分さが調査結果につながっている」指摘

「Urgewald」側は調査方法について、「企業や金融機関が数値を十分に詳細な公表をしていないため、入手可能な数値と情報に基づいて行うことができる最善の方法」などとし、情報公開の不十分さを指摘。また、「パリ協定の目標を達成するには石炭鉱業事業や石炭火力発電事業から早急に撤退しなくてはならないのに、そうした事業を行う企業向けの一般融資を行うこと自体が、事業を延命させることにつながる」と問題視している。

調査結果についても、350Japanは「石炭産業向けの融資について欧米の銀行は、『対OECD諸国は2030年までにゼロ』を掲げるなど、日本のメガバンクのポリシーの不十分さが調査結果につながっている」と指摘している。

身近な銀行に預けている「お金」も、気候変動問題につながっている。私たちにまず必要なのは、自分の「お金」が預け先でどのように使われているのか、環境リスクはないのか、自ら知り、ウォッチすることではないだろうか。

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「石炭産業に融資しないで」だから私は銀行口座を変える。“ダイベストメント”に日本のメガバンクはどう向き合うのか。