中国・大連の「小京都」は“日本要素排除”で再開へ。それでも日本人商店主に「悲壮感は全然ない」

中国東北部・大連にある東京ドーム13個分の敷地に、日本円にしておよそ1000億円もの資金を投下して作られた「京都再現プロジェクト」。

2021年夏に「小京都」として開業を迎えたが、日本要素を全面に押し出したためネットで批判の声が集中したこともあり、およそ1週間で営業停止に追い込まれた。

そのプロジェクトが、2月をめどに営業を再開させる。批判を受けてほぼ全ての日本要素が排除されるが、現地にテナントを構える日本人経営者は「悲壮感はほとんどない」と語る。国境を跨いで注目を集めた炎上騒動のさなか、大連で起きていたリアルを聞いた。

■1000億円超で京都を再現も…

このプロジェクトは現地デベロッパーの「大連樹源科技集団有限公司」が手がけ、日本からも企業や設計者らが参加した。大連郊外のリゾート地にある東京ドーム13個分の敷地を利用し、別荘や商店など1600超の建物を設ける。総投資額は60億元(約1080億円)に上る。

2019年夏に筆者が現場を訪れたところ、建設予定地には奥が霞んで見えるほどの荒地が広がっていて、周辺エリアでは京都風の別荘地や日本式の温泉旅館がすでに人気を博していた。全体を1/3ずつに分割し、出来上がった部分から順に開業する計画だった。

第1期の開業式典が開かれたのは2021年の8月25日。多くの客が詰めかけ賑わったという。

順調な滑り出したと思われたが、ネット空間を中心に批判の的になっていく。「京都」という日本の要素を前面に押し出したことから、日本に反感を持つネットユーザーたちからの攻撃に遭ったのだ。

その結果プロジェクトは、開業からおよそ1週間で地元政府から営業停止を命じられることになる。

■日本らしさを消した名称へ

複数の関係者によると、プロジェクトは2月2日をめどに営業再開する予定だ。一部店舗は1月初旬からすでに営業している。

しかし、批判を受けたこともあり、元々特色だったはずの日本要素はほとんど全てが削除される。「盛唐・小京都」だった名称も、日本色のないものに変更することを余儀なくされ、「盛世・東都瑞景」など複数の候補が検討された結果、最終的に「金石万巷」に決まった。

日本要素を排除せざるを得ない事態は、プロジェクトを手がけるデベロッパーにとっても予想外の出来事だった。2019年にデベロッパーの幹部を取材したとき、筆者は「抗日運動リスク」について聞いていたが「両国間で大きな衝突が起こった場合、大連ではどのような影響を受けるか、と言ってもあまりないでしょう。そうした状況が起こったことがありません」と答えていた。

■「松井はやめてくれ」

「『神戸異人館』という看板と暖簾は外しました」。

現地でカレーパンなどを売る店を出店していた「松井味噌」の松井健一社長は、ハフポスト日本版の取材にこう話した。

松井さんによると、営業再開に漕ぎ着けたいデベロッパーは、日本色をなくすために各店舗それぞれに変更案を提示。店舗ごとにすり合わせをしたあと、その内容を大連市政府に報告し、再開の許可を求めていたという。

例えば、松井さんの会社が運営する店舗はこんな交渉があった。

「『神戸の文字は消してくれ』と言われ、看板を外しました。代わりに『松井味噌』で良いかと聞いたのですが、昔の戦争映画などによく出てくる典型的な日本人の苗字ということもあり、使えないということでした」。

要求は店名だけでなく、商材にまで及んだという。松井さんが振り返る。

「『中華料理店に変えてくれ』と言われました。それは無理でしたが、私の会社の売り上げ1位はラーメンスープ。最終的な妥協点として、ラーメンならば中国の料理だから良いでしょうと交渉しました。ラーメンはすでに同業者さんが出店していたので、少し種類を変えて味噌ラーメンにしました」

松井さんの店にはシンプルに「味噌拉麺」の看板がつけられることになった。さらに中国国旗や中国風の提灯を店先につけることも求められたという。

そのほかにも、日本色を薄めて国際色を強める動きが進んでいる。松井さんが送ってくれた現地の動画を見ると、北朝鮮の「平壌冷麺」やスペイン、イタリア料理などの看板が立ち並んでいるのがわかる。

■リスクじゃない、と言える理由

およそ5ヶ月に及ぶ突然の営業停止に加え、看板や商材の変更を迫られるなど、中国ビジネス特有のリスクを感じさせる出来事にも見える。

しかし松井さんの考えは違う。「それはリスクなの?というレベルですね」。

実は、松井さんたち初期に入居した店舗は、テナント出店にあたって「3年間は家賃を取らない」という約束を取り付けている。それに加え、21年夏の開業直後の盛況も目の当たりにしている。今回の騒動を勘案をしても、ビジネスとしてはかなり有望とみているのだ。

「開業直後は、(従業員たちが)混雑ぶりに悲鳴をあげていました。カウンターに商品を並べれば奪い合うくらいに売れていく。それが年間通じて続くかは別だとしても、(客足が)半分か1/3くらいでないとやっていけないくらいでした。大連の冬は寒いですが、4月から9月ごろまで稼げるならば場所としては大成功だと思います」

このプロジェクトが位置するのは、国の最高ランクのリゾート地に指定されている大連市の「金石灘」地区。避暑地としても有名で、大連市内や中国国内からのツアー客の立ち寄り先として、行楽シーズンは一定の集客が見込めるという。

「非常にSNS映えする場所。近くには遊園地もあり、帰りにちょっと寄って食べるような、超大型ドライブインのような雰囲気です。夏には駐車場もいっぱいになるのかなと思っています」

今回の日本要素が批判された騒動についても、大きな動揺はない。

「中国では大きなモールがすぐに閉められることもあるわけです。韓国のロッテマートが営業停止に追い込まれたこと(※)もありますし、中国人にはリスクがないのかといえば、突然学習塾が禁止になる(※2)こともあります。(今回の騒動は)中国で言えば『リスクではないでしょう』というレベルですね」

※…2016年、アメリカと韓国が北朝鮮の脅威に対抗する手段としてTHAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)の韓国配備を決定。これに中国が自国の安全保障を脅かすと反発し、韓国に経済的な報復を開始。その一環としてロッテマートに営業停止命令が出された。

※2…2021年7月、中国政府は家庭の教育負担を減らすなどと銘打った「双減」政策を発表。営利目的の学習塾が禁止され、教育ビジネス関連で多数の失業者が生まれている。

デベロッパーにとっても、このビジネスは悪くない結果をもたらしそうだ。

このプロジェクトでは、商店街に加えて別荘地の建設も進む。関係者によると、21年末時点ですでに第1期分として300棟前後が売れたといい、2期、3期と続けていく計画だ。

松井さんに現地ビジネスパーソンの雰囲気を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「私も中国に倉庫や工場を持っていますが、突然立ち退きを迫られたことは何度もあります。それに比べれば今回の騒動は、社員の間でも『社長、(出店を決めて)良かったですね』と言われるくらいで、悲壮感は全然ありません」

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中国・大連の「小京都」は“日本要素排除”で再開へ。それでも日本人商店主に「悲壮感は全然ない」

Fumiya Takahashi