「お金について考えよう」と言われたら、どんな気持ちになるだろう。増やすための投資・NISA・iDeCo…。聞いたことはあるが、何から手をつけるべきなのかと迷う人に。ファイナンシャルプランナー(FP)の高山一恵さんに、初心者向けの「お金のきほん」を聞いた。連載第2回は、働き方とお金の関係を考える。
こんにちは、FPの高山一恵です。お金を貯めたり、運用したりしていくためには、まず「働いて収入を得ること」が必要になってきます。お金のやり繰りの話をする前に、今回は「働き方」について考えていきたいと思います。
コロナ禍で、自分の働き方や生き方を見つめ直した人は多いのではないでしょうか。
例えば、職場でリモートワークが本格導入され「通勤に時間をかけなくてよくなった」という人がいます。その時間を活用して副業に挑戦してみたのがきっかけで、独立・フリーランスといったキーワードにも関心を持ったかもしれません。
対面で他人と会う機会が減り、家族や自分自身と向き合う時間が増えたことで、仕事と生活のバランスについて考え直した人もいるでしょう。
私のもとへ相談に訪れる顧客の中にも「これまで稼ぐことばかり考えてきたけれど、精神的な豊かさにより重きを置きたい」「働きがいを感じられる職場に転職したい」といった声が増えていると感じています。収束の見通しが立たないコロナ禍で「頑張り過ぎて少し疲れた」という実感もあるのかもしれません。
もちろん、働き方を再検討するのは有意義なこと。収入は多いに越したことはないけれど、負荷の高い仕事で心や体が酷使され続けていると感じるなら、キャリアプランの見直しが必要です。そもそも「充実した人生」に必要な収入は人それぞれ。多ければ多いほど幸せかというと、一概にそうともいえません。
ただ、感情だけに流されて働き方を変えてしまうと、そこには落とし穴もあります。
例えば、私の顧客では、40代まで商社の総合職で働いて年収800万円を稼いでいたけれど、もう少し緩やかに働きたいと、フリーランスのヨガインストラクターに転身した女性がいました。しかし、年収は250万円に減少。収入減に合わせて生活を急激にダウンサイズするのも難しく、アルバイトを掛け持ちしてしのいでいました。それで「思い描いた生活が実現できない」と相談に来たのです。
問題は年収が減ったことそれ自体というよりも、事前の情報収集と、変化に対応するための計画の不足でした。
好きなことや得意なことを生かして稼ぐフリーランスは、働く場所や時間を自分で決められたり、働いた成果が収入にそのまま直結したりするメリットがあります。一方で、フリーランスは健康保険や厚生年金、雇用保険には入れないので、国民健康保険や国民年金に加入し、その保険料は全額自己負担になります。病気やケガで働けなくなったときの手当てや老後の資金づくりに際しては、民間保険や共済制度などについて自分で調べ、活用していく必要があります。ただ「独立前はそこまで考えていなかった」という人が多いのが現状です。
また、現在は正規雇用で働いているけれど、派遣社員などに働き方を切り替えて、労働時間などをコントロールしやすくしたいと考えている人もいると思います。ただ、厚労省の調査によれば、正規雇用と非正規雇用では賃金にこれだけの格差が生じます。
正規雇用を望んでいても、いろいろな事情でそれがかなわない人も多いことは言うまでもありません。非正規雇用で既に働いている人にとっては、このグラフは「何を今さら……」と感じるものでもあるでしょう。ただ、フルタイムの正社員としてずっと働いてきた人ほど、「自分とは異なる働き方」についての知識や関心が乏しいのが、さまざまなマネー相談を受けてきた私の実感です。働き方を選択できる余地が自分にありそうなら、こうした「お金」事情は認識した上で、キャリアプランを立てる意識を持ちましょう。
これからキャリアアップして、生涯収入を増やしていきたいなら、語学や資格取得、ITスキルの勉強など自己投資に力を注いでいきましょう。
会社員(雇用保険の被保険者)であれば、厚生労働省の指定する講座を受講すると費用の一部が給付される教育訓練給付金制度が利用できます。また、企業によっては、業務に関係する資格の取得費用を補助する制度を備えている場合もあります。ぜひ有効に使ってください。
ここで気を付けたいのは、資格を取ったり、知識を身に付けたりすること自体が目的化してしまわないようにすること。「学んだ後、どう生かしたいのか」まで意識しましょう。お勧めは、自己投資と副業を組み合わせてみることです。つまり、新しいスキルや知識を身に付けたら、それを副業で生かせないか模索してみるのです。
実務経験がないことで副業案件が見つかりにくかったり、職場で副業許可が得られなかったりする場合は、社内のプロジェクトに手を挙げて参加したり、学びの実績をアピールして部署異動を希望したりしてみてもいいと思います。学んだだけで満足せず、それを実戦に結び付けていく意識を持つと、収入アップにもつながりやすくなりますよ。
(取材・文:加藤藍子@aikowork521 編集:竹下由佳@kuboyu318)
高山一恵さんプロフィール
Money&You取締役、ファイナンシャルプランナー。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めた後、現職へ。女性向けWebメディア「FP Cafe」や「Mocha(モカ)」を運営。全国での講演活動、執筆・相談業務も行う。著書は『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)、『はじめてのNISA &iDeCo』(成美堂出版)など。
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