IT教育には女子中高生だけの「入り口」が必要だ。Waffleが挑む、ITのジェンダーギャップ解消

「誰でも無料でIT教育にアクセスできる時代。やる気さえあれば、機会は男女関係なく平等に開かれているんですよ」ーー。

IT業界で働く女性を増やすためにはどうすればいいのか。そんなテーマで、子ども向けに無料プログラミング教材を提供するIT企業を取材したとき、こんな言葉が返ってきた。

しかし、私の心はモヤモヤした。時代が令和に変わっても「女性は理系が苦手」などのジェンダー・バイアスが根強く、IT業界で活躍する女性のロールモデルが極端に少ない日本。その「機会」に辿り着くまでのハードルは、果たして男女平等と言えるだろうか。もちろんその後、仕事に繋げる過程についても。

そんな矢先に出会ったのが、女子中高生を対象にプログラミング講座やアプリコンテストの運営などを行う一般社団法人Waffle(ワッフル)だ。CEOでCo-Founderの田中沙弥果さんは、先述の私のモヤモヤにまるで応答するかのように、きっぱりとこう言った。

「教材だけを無償公開することもできます。でもそれだけじゃ、女の子たちには全然届かないんです」

それでは、Waffleはどのようにして女子中高生にIT教育を届けているのだろうか。キーワードとなるのは「女の子のための場づくり」だ。

女子中高生の文理選択における“理系離れ”、「誰かが支援しなければ」

Waffle設立の背景には、田中さんが感じたある“違和感”がある。

2017年から、NPO法人「みんなのコード」で働いていた田中さん。2020年度から始まる小学校のプログラミング必修化に向けて、教員に向けた支援をしていた。

研修で訪れた小学校では、女子も男子も楽しそうにプログラミングの授業を受けている姿が見られた。しかし、中高生向けのプログラミングのイベントやコンテストを訪れたとき、思わず目を疑った。女子の姿がほとんど見られなかったからだ。

「20人のうち、女の子は1人いるかいないか。中高生の女の子たちに一体何が起きるんだろうか、と疑問を感じました」

調べてみると、15歳の男女で理数系の学力にはほとんど差がないにも関わらず、女子は大学進学前の「文理選択」の段階で理系から離れてしまうという現実が見えてきた。理工系の学部への入学者に占める女性の割合ーー28%(理学部)と15%(工学部)ーーがそれを物語る。

背景にあるのは、「理系は女性らしくない」「理工系の職種は体力が必要なので女性には厳しい」などの親や教師、メディアによるジェンダー・バイアスだ。

「誰かが女子中高生への支援をしなければならない」。そんな思いから、2020年にWaffleを設立。データサイエンティストとして企業で働きながら同じ課題を感じていた斎藤明日美さんもCo-Founderとして加わった。

IT教育には「女の子だけの別の“入り口”が必要」

Waffleが提供するサービスの一つが、ホームページ制作講座 “Waffle Camp” だ。事前と事後の学習を含めた3週間のプログラムで、ウェブサイト制作に必要なスキルとコーディングを学ぶ。

これだけならば従来のプログラミング講座などと変わらない。しかし、Waffle Campがユニークなのは、それが「女子中高生限定」だということだ。

ITに興味がある女子は男子ばかりの環境で孤立しがちだ。「仲間」がいないことで、IT分野への進学を諦めてしまうケースも多い。だからこそ、同じ興味や志を持った女子が集う場を担保することが大事だと、田中さんは言う。

「同世代でプログラミングに興味を持っている人がこんなにいるんだと知ってもらえるような居場所を作っています。現状では男の子の方が機会にアクセスしやすい構造がある。そういう意味で、女の子に対しては別の入り口を作ってあげる必要があると思っています

プログラムには、IT業界で活躍する女性たちの話が聞けるキャリア講習会や、企業でソフトウェアエンジニアなどとして働く”先輩”が生徒2人に伴走するメンター制度も含まれている。

「キャリア講習会では、その日に講座で習った内容が実際のキャリアとどう繋がるのかを女性エンジニアに話してもらいます。何が決め手で大学や学部を選んだのか、実際にどんな仕事をしているのか。そんな話をしてもらうことで、仕事の解像度が上がり、今後の進路が見えてきます」と田中さん。

参加者から先輩への相談で「ダントツに多い」というのが、「数学に自信がない」というものだ。

日本の中高生の数学のレベルは国際的に見ても高く、OECDの調査における日本の女子の平均点はOECD加盟国の平均点を30点以上も上回る。しかし田中さんによると、「女子は数学は苦手」というジェンダー・バイアスなども影響して、女子の理数系科目への苦手意識は男子より高くなりがちだという。

Waffle Campでは、「エンジニアになりたいのですが、数学が苦手です。どうしたらいいですか」などの女子中高生の相談に対して、女性エンジニアが「私も数学苦手でしたよ」と背中を押す光景がよく見られる。

ロールモデルとなる先輩との出会いで、ITの世界に進むことへの心理的ハードルが下がっていく。

参加者からは「一つ選択肢が増えた気がする」「大学で専門的に学んで、私もメンターの方たちのようになりたい」などの声が多く寄せられているという。

政府の「解像度」もようやく上がってきた

Waffleの活動は女子中高生への直接の支援にとどまらない。両軸で力を入れているのが、政策提言だ。IT分野のジェンダーギャップを解消するためには、個人へのエンパワーメントだけでは足りず、教育などの仕組みが変化していくことが不可欠だからだ。

2020年9月には、第5次男女共同参画基本計画素案の「科学技術・学術における男女共同参画の推進」について、ユース団体と一緒にパブリックコメントを提出。中学・高校における理数系の女子教員の少なさが女子生徒の理数系への意欲低下に繋がっているとして、基本計画に「理数系科目の女性教員を増やす教職課程での取組」を盛り込むことなどを提言した。

6月には、内閣府「若者円卓会議」の有識者委員に任命された田中さん。政府と対話するなかで、「政府の危機感は確実に上がってきた」と手応えも感じ始めている。

「政府は長年、女性の理系研究者を増やすことをゴールに、採用の機会均等や、職場環境の充実などに力を入れてきました。それでも成果が表れないという現状に対して、私たちは『そもそも理系分野に進学する中高生の“母数”を増やさなければならない』と説明してきました。最近では、私たちの訴えを受けて、政府もようやく課題を解像度高く認識してきたと感じています。これから女子中高生への予算が動いていくことに期待したいです」

「Waffleのような団体が必要なくなる社会」を目指す

今年で2年目を迎えたWaffle。これから力を入れていきたいのが、自治体との連携だという。そこには、環境や機会に恵まれない子どもたちにこそ、IT教育を届けなければならないという課題感がある。

「Waffle Campに参加してくれる女子中高生は、もともと『プログラミングをやってみたい』という興味がある方がほとんど。それは、親からの勧めや促しがきっかけになっているケースも多いんです。でも、プログラミングを娘に勧める価値を理解している親は、東京など大都市圏で働いていて、子どもを私立の中高一貫校に行かせるなど教育への関心が高い層が多いという印象です。むしろ『ITなんて自分の人生と関係ない』と思っているような女子中高生たちにこそ、機会を届ける必要があります

8月には、徳島市や横浜市と協働し、地元の女子中高生に向けてWaffle Campを試験的に実施。この結果を踏まえて、今後は全国での展開も視野に入れているという。

目指したいのは「Waffleのような団体が必要なくなる社会」と、田中さん。

その日が実現するまで、歩みは止めないつもりだ。

身近な話題からSDGsを考える「ハフライブ」。10月のテーマは「STEM分野の女性を増やすために何ができる?」。Waffle Co-Founderの斎藤明日美さんとタレントのSHELLYさんを迎え、話し合います。

<番組概要>

配信日時:10月11日(月)夜9時~

配信URL: YouTube
https://youtu.be/va5fQHiSVJw

配信URL: Twitter(ハフポストSDGsアカウントのトップから)
https://twitter.com/i/broadcasts/1ypKdEboEEpGW
(番組は無料です。時間になったら自動的に番組がはじまります)

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Source: ハフィントンポスト
IT教育には女子中高生だけの「入り口」が必要だ。Waffleが挑む、ITのジェンダーギャップ解消

Haruka Yoshida