菅義偉政権には失望。それでも野党の支持率が上がらない理由

自民党総裁選に世間の関心が集まるなか、立憲民主と共産、社民、れいわ新選組の野党4党は共通政策に合意し、次期衆院選での共闘(選挙協力)に大きく踏み出した。

しかし、朝日新聞の9月の世論調査では、野党第1党の立憲の支持率は5%と、自民の7分の1に満たない。菅義偉政権への失望が広がる一方で、野党の支持率が上がらないのはなぜなのか。

『「野党」論』の著者で先進国の政治に詳しい吉田徹・同志社大教授に、その理由を聞いた。

野党4党が共通政策に調印

9月8日に野党4党が合意した共通政策は、以下の6項目で構成される。仲介役を担った市民団体「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」は、国民民主党にも合意を求めていく考えだ。

①憲法に基づく政治の回復

安保法制・特定秘密保護法などの違憲部分の廃止(抜粋、以下同じ)

②新型コロナ対策の強化

人や企業への万全な財政支援

③格差と貧困の是正

消費税の減税、再分配の強化

④地球環境を守るエネルギー転換

原発のない脱炭素社会の追求

⑤自由で公平な社会の実現

選択的夫婦別姓制度やLGBT平等法の成立

⑥公平で透明な行政の実現

森友加計問題、桜を見る会疑惑などの真相究明

野党候補の一本化は進むが…

こうした共通政策を旗印とした野党共闘は、2016、19年の参院選(1人区)でも実現し、一定の成果を挙げてきた。共闘関係を築けないまま衆院選にのぞめば、1人しか当選しない小選挙区に複数の野党候補が立ち、共倒れのリスクが高まる。

立憲は現在210あまりの選挙区で擁立を決めているが、そのうち共産、国民、社民、れいわと競合する選挙区は計70以上ある。今回の合意を機に、候補者の一本化が進むと見られている。

吉田教授は共闘の必要性を認める一方で、今回合意した共通政策の中身について、厳しい見方を示した。

「これまでの自民党政権の政策の批判が主で、反自民の支持を固めるためのものでしかない。多くの有権者が争点として重視する景気や雇用対策、マクロ経済政策(財政政策、金融政策)はどうするのか」

「それらを示したうえで、自民党とは違う国家や社会をつくるために野党は共闘するのだと説明しなければ、『単なる選挙互助会』と批判されるだろう」

政治理念に差がある共産党がどう連携するかを含め、明確な政権構想を示すべきだと言う。

なぜ野党の支持率は上がらないのか?

吉田氏は、憲法や安全保障問題を重視する確固たる左派層を「岩盤リベラル」と呼ぶ。今回の共通政策は、岩盤リベラルが実現を求めている内容で、そこに偏重した立憲の姿勢が支持拡大を妨げていると指摘する。

「立憲は『岩盤リベラル』にあまりに忠実すぎて、そこからウィングを中道の『無党派』に広げられないのが弱点だ。夫婦別姓やLGBTQなどリベラルな論点は訴求力は高いが、幅広い有権者に浸透しにくい」

「一方で、立憲は(中道向けの)マクロ経済政策を打ち出してこなかった。リベラルと中道に橋を架けることこそ政治の役割なのに、岩盤リベラルに寄りかかった政党、という以上の存在感を示せていない」

安倍政権の「アベノミクス」が経済界から支持されてきただけに、立憲がそれに代わる政策を打ち出しにくかった側面もある。

民主党政権の「負の遺産」

また、旧民主勢力である立憲には、2009年に誕生し、内部崩壊で行き詰まった民主党政権の「負のイメージ」がつきまとう。政権担当能力を訴えるには、党内ガバナンスの構築が問われることになる。

「自民のような保守政党はリーダーの『権威』を認める文化を持っていて、親分の言うことには従う。対する左派政党は平等主義、個人主義的な文化を持ち、組織の統率が効かないことがある」

「立憲の枝野幸男代表のトップダウン的な統制は、党が取り込んでいる民意の幅が狭いから成り立っているが、民主党政権のように党が大きくなれば通用しなくなるだろう」

若者からの支持は?

若年層の取り込みも、20~30代の支持率が高かった安倍政権と比べ、立憲はうまくいっているとは言い難いという。

「岩盤リベラルは憲法など1960年~70年代の対立軸をそのまま大事にしているが、若年層は同じ目線で政治を見ていない。雇用や賃金、教育、生きづらさなど、もっと目先の問題に関心がある」

「『明日は今日より良くなる』時代だった中高年と異なり、若年層は『明日は今日より悪くなる』前提のなかで生きている。若者にアピールする政策は、自ずと違ってくるはずだ」

立憲の枝野氏は8日、若者向けの政策を記者団に問われると「国公立大の授業料の半減をはじめ、いくつかのパッケージを示したい」と意欲は見せている。

投票率より「なぜ投票するか」が大事

その若年層は、日本の将来を担うと言われながら、他の世代に比べて投票率は低い。若者たちは、どういう意識を持って選挙にのぞんだらいいのか、吉田氏に尋ねた。

「こういう社会を実現したいという思いがなければ、投票の意味はない。どうして、なぜ投票するかが大事だ」

「民主主義では仲間や集団を作らないと、求める政策は実現しない。周りを説得したり、候補者に働きかけたり、自分たちで候補者を擁立するくらいの行動をとってもいい。そして、そういう取り組みを、上の世代の人たちが応援してあげることが大切だ」

吉田徹(よしだ・とおる)氏

1975年生まれ。同志社大政策学部教授。専門は比較政治。著書に『アフター・リベラル 憎しみと憎悪の政治』(講談社現代新書、2020年)、『「野党」論ーそれは何のためにあるのか』(ちくま新書、2016年)、『感情の政治学』(講談社、2014年)などがある。

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Source: ハフィントンポスト
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