9月1日は「防災の日」。毎年のように起こる記録的な大雨や豪雨、洪水などによる自然災害から、命と暮らしを守るために、私たちはどのような心構えをしておけば良いのだろうか。
気象予報士の千種ゆり子さんは、水害への防災力を高めるために、人々が「気象リテラシー」を身に付けることが大事だと指摘する。災害時には情報を受け身で待つのではなく、自ら率先して「情報を取りにいく」ことが重要だという。
水害時の情報の取り方や、私たちが備えておくべきことについて、千種さんに聞いた。
—— 8月は各地で記録的な豪雨に見舞われました。この豪雨災害から得られた教訓は何ですか?
長期的にみると、極端な大雨は増える傾向です。皆さんの記憶に残るような大きな災害は毎年あって、例えば鬼怒川の氾濫を引き起こした2015年の関東・東北豪雨、17年の九州北部豪雨、18年の西日本豪雨、19年の東日本台風(台風19号)、昨年の熊本豪雨などが挙げられます。
物理学者で随筆家の寺田寅彦氏(1878~1935年)が「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉を残していて、確かに地震についてはそうなんですけど、気象という意味だと「忘れた頃に」ではなくて、毎年やってくるものだというのが教訓です。
今年は静岡県熱海市の土石流もありました。毎年、日本のどこかでは絶対に起こると思って対策や心構えをしておく必要があると思います。
—— 日本では毎年のように水害が起き、犠牲者が出ています。災害に強い国になるためには何が必要でしょうか?
災害に強いという意味だと、皆さんが第一に思い浮かべるのが、堤防をしっかり造るなどのインフラ整備、ハードの対策だと思うんですけど、ハードの対策を考えると、想定というものが生まれて、その想定を超える状態が生まれると、それでは防ぎ切れないということが起こってくるんですね。
もちろん国や自治体がハードを整備していくのは必要だと思うんですけど、私たちの心構えとしてはハードに頼り過ぎないといいますか、ハードだけを過信しないようにすべきだと思います。そういう意味では、ソフトの対策である避難に対する国民の意識向上は重要です。早めの避難を心掛け、避難して何もなければそれで良かったね、と考えられるような雰囲気づくりが大切です。
—— 昨今の異常気象をどう見ていますか。また、どう分析していますか?
気象庁の定義では、異常気象は原則として「ある場所、ある時期において30年に1回以下で発生する現象」のことを言います。
地球の大気の動きをつかさどる物理法則は変わっていないので、昔と変わったのは気温の上昇です。温暖化で日本付近の水蒸気量が増えたことによって、大雨になった際の1回の降水量が多くなっています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が8月に公表した報告書も「大雨の頻度と強度は1950年代以降でほとんどの陸地のエリアで増えていて、人為起源の気候変動が主要な駆動要因である可能性が高い」と説明しています。
—— 私たちはどう備えて、どう命を守ればいいのでしょうか?
気象庁ホームページやYahoo!天気・災害など、インターネット上に出る情報を読み解く力を養ってほしいと思います。
私が分かりやすいと思っているのは気象庁がホームページで提供している「キキクル(危険度分布)」。どのレベルの危険が迫っているかを色分けし、一目で危険度が分かります。本当に自分の家は危険なのかと考えることが大事です。
「キキクル」以外にも、NHKニュース・防災アプリは、それぞれの地域の天気予報や災害情報、避難情報などを発信していますので、普段から情報を見る癖を付けてほしいと思います。
私は勝手に「気象リテラシー」と表現しているのですが、情報を受け身で待っているのではなくて、自分から情報を取りにいって読み解く力を付けることが重要です。
テレビやインターネットのニュースは、あなたの家が安全かどうかまでは教えてくれません。自分の家の周りが危険かどうかはハザードマップで普段から確認しておき、有事の時は主体的に気象情報を読み解き、避難行動につなげる力が必要だと思います。
災害弱者である高齢者にどう情報を伝えるかも重要です。最近は気象庁や国土交通省などが、インターネットを使った情報発信に注力しており、パソコン(PC)やスマホを使い慣れている層には気象防災情報がきちんと行き届いていると感じます。
しかし、そういったものを使いこなせない高齢者に気象防災情報をどう届けるのかというのが課題です。高齢者は移動にも時間がかかることなどから、もともと災害弱者なのですが、近年のネット社会の流れによって、よりその傾向が顕著になっていると感じます。気象防災情報が届かない高齢者を気象災害から守るためには、地域防災力が重要になると考えています。
—— 未来を担う子供たちが身につけておくべき防災力とは何だとお考えですか?
今の子供たちはデジタルネイティブで、生まれた頃からスマホを触っています。教育現場で今は地震の避難訓練が主体だと思うのですが、水害の情報の取り方や水害の避難訓練もどんどん取り入れていってほしいと思います。温暖化によって極端な気象が増えていく世界が今後どんどんやってきてしまう可能性があります。近年、小中学校の教育現場にはPCやタブレットが配備されてますので、自ら気象庁ホームページなどから気象防災情報を入手するという気象防災の授業を取り入れてほしいですね。
この気象防災の授業を行うことによって、先ほど課題として挙げた高齢者への情報伝達も改善することができるのではないかと私は考えています。
長年、岩手県釜石市の小中学生に対して、津波防災教育を実施してきた片田敏孝特任教授(東京大学大学院)は「率先避難者たれ」という教えを説いています。避難しなければいけない時は自らが“率先避難者”となり、周りに声を掛けながら逃げることが大切だ、ということです。
私はそれを津波以外の気象災害にも応用できると思っています。情報を自分で得て、避難が必要な時は、周りの高齢者や地域住民に伝えながら自ら避難する。「大切な人の命もあなたが守るのよ」という意識を持っていてもらいたいなと思います。また、地域の小中学生を、防災コミュニティーの核と位置づけ、デジタル教育と地域防災を組み合わせたハイブリッドな防災が期待されていると思います。
ちくさ・ゆりこ 1988年生まれ。埼玉県出身。一橋大学を卒業後、一般企業に就職。幼少期に阪神・淡路大震災で被災したこと、また東日本大震災をきっかけに防災の道に進むことを決意。2013年に気象予報士の資格を取得。17年よりテレビ朝日「スーパーJチャンネル(土日)」の気象キャスター。
Source: ハフィントンポスト
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